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艦載機訓練地 移転候補・馬毛島 年度内にも買収 

岩国なお懸念 予備施設指定 継続も

 米空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)の移転候補地である鹿児島県西之表市・馬毛島を巡り、政府と地権者の売買契約が年度内にも成立する見通しとなった。艦載機が所属する米軍岩国基地(岩国市)の地元自治体は歓迎する。一方、岩国でFCLPがなくなる保証はなく、米軍の運用次第である状況は変わらない。(松本恭治)

 「大きな前進と受け止めている」。岩国市の福田良彦市長と山口県の村岡嗣政知事は1月、政府の「馬毛島買収」を巡る報道陣の質問に同じ表現で答え、早期の施設整備を希望した。同月末には防衛省職員たちが島に入り、土地の測量などの現地調査を開始。3月末までに終える方針という。

 FCLPは空母ミッドウェーが横須賀基地(神奈川県)を母港化した1973年に三沢(青森県)岩国両基地で始まり、82年から主に厚木基地(神奈川県)で行われた。騒音被害が社会問題化する中、日米両政府は89年に東京都・硫黄島での暫定実施に合意。91年から島内訓練が始まった。

米軍が母基地化

 現在、硫黄島を使うのは空母ロナルド・レーガンの艦載機。昨年3月に厚木基地から岩国基地への移転が完了した機体だ。岩国でのFCLPは2000年が最後だが、今や母基地だけに「格好の訓練場所」との見方もできる。

 そうした懸念から、岩国市と山口県は岩国で実施しないことを艦載機受け入れの前提条件とした。市は08年にも、恒常的施設の場所を早く決めて岩国には建設しないよう国に要請。馬毛島に整備されれば、岩国で実施される可能性は低下すると期待される。

 ただ、岩国基地が使われなくなる確約はない。米軍はこれまで硫黄島が悪天候などで使えない場合の予備施設に指定。施設整備は「10年程度」との見通しもあり、指定は繰り返される可能性がある。整備後についても防衛省は「指定解除の話はない」と説明。市や国、同基地でつくる岩国日米協議会の確認事項にはFCLPを想定した項目が今なお残る。

住民不安解消を

 一方、艦載機の移転完了後初だった昨年5月のFCLPは、米軍の「運用上の理由」で当初予定の12日後に終了したが、予備施設の岩国基地などは使われなかった。福田市長は6月の市議会で「硫黄島での訓練が延長できるなら予備指定の必要もない」と指摘した。

 仮に岩国でFCLPが強行されれば、艦載機移転を受け入れた市と県の前提条件が崩れるばかりか、共存を模索し始めた地域との信頼関係も大きく損なう。住民不安の解消には施設整備だけでなく、国、米軍、自治体の一層の取り組みが求められる。

陸上空母離着陸訓練(FCLP)
 空母艦載機のパイロットが艦上での離着陸の技量を向上、維持するための訓練。陸上の滑走路を甲板に見立てて着陸後すぐに離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返し、通常訓練より激しい騒音を伴う。夜間離着陸訓練(NLP)もその一つ。米軍は2017年9月、硫黄島の悪天候を理由に約5年ぶりに厚木基地で実施した。

(2019年2月3日朝刊掲載)

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