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社説・コラム

天風録 『核軍縮のご破算』

 こっちがこう出たら、向こうはこんな手を打ってくるから…。相手の出方を読む「ゲーム理論」は作戦を立てる際、頼りになるという。とはいえ恋愛の駆け引きやビジネスならともかく、核軍縮の交渉に持ち込むつもりだろうか▲トランプ米政権が、ロシアとの中距離核戦力廃棄条約をご破算にすると宣言した。不利な時はルールを変える。それがゲーム理論では鉄則の一つと聞く。条約が骨抜きになりかねないロシアの新型ミサイル配備が、よほど腹に据えかねているらしい▲「ディール」と呼ぶ、トランプ氏ご自慢の交渉術かもしれない。しかし今後は、ロシア相手の一対一では済まない。別の条約づくりには新顔も巻き込む必要がある。角突き合う米ロを尻目に着々と核大国化を進め、漁夫の利を得る中国である▲三つどもえの駆け引きは簡単ではない。グー、チョキ、パーの力関係が刻々変わるじゃんけんを想像すれば、その難解さが知れる。そして米ロ中の3カ国を結ぶ三角形は太平洋をまたぐ▲日本にすれば、「核の傘」どころか「核軍拡のトライアングル」が列島を覆いかねない。「核兵器をもてあそぶな」。被爆国として言うべきこと、言うべき時がある。

(2019年2月3日朝刊掲載)

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