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社説・コラム

天風録 『「スマート」の流行』

 スマートな人だね―。一昔前なら細身の人を思い浮かべるだろう。でも今なら、ぱっぱっと手際よい人を想像する。スマートフォンが広まった影響があるかもしれない▲スマート家電、スマート農業といった言葉も紙面で見かけるようになった。インターネットとつながり、勝手に動いてくれるのを売りにする。洗練されているとか賢いというイメージを植え付ける意図があるのだろう▲来週始まる確定申告にも、その流れが押し寄せている。「スマート申告」である。混雑した会場に行かなくてもスマホで手続きが済む。医療費還付を試したが、今まで欠かせなかった領収書の提出が必要ない。職員がチェックしてくれないと思うと慎重になりすぎて、手際よくできなかった▲スマートという言葉が米国で流行したのは1990年代だった。湾岸戦争で使ったスマート爆弾がきっかけらしい。泥沼化したベトナム戦争と対照的にレーザー誘導で命中精度を高めて「スマート」に人の命を奪った▲米軍には栄光の一つでも、落とされた側にとっては悪夢でしかなかろう。スマートの流行にはそんな背景もあった。そう考えると、軽々しく頭に付けるのを考え直したくもなる。

(2019年2月16日朝刊掲載)

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