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肝硬変を原爆症に初認定 東京高裁控訴審判決

■記者 岡田浩平

 原爆症の認定を国が却下したのは不当として千葉県の被爆者4人が処分取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(渡辺等裁判長)は12日、一審を支持し、新基準で認定されていない2人の原告を原爆症と認めた。一連の集団訴訟で初の高裁判断が注目された肝硬変も認定した。原告の国家賠償請求は退け、双方の控訴を棄却した。

 全国17地裁で提訴された集団訴訟で高裁判決は仙台、大阪に続き3件目。地裁を含め国の14連敗となった。各地裁が認めながら国が放射線との関連を否定する肝機能障害を高裁が原爆症と認め、原告、被爆者が求める新基準の見直し、訴訟の解決への機運は一層高まりそうだ。

 判決は、新基準で積極認定しているがん以外の病気の発症や悪化も、被爆状況などの条件を満たせば放射線との関連を「事実上推定されるべきだ」などと指摘。高田末子さん(69)の肝硬変、田爪スミエさん(71)の陳旧性心筋梗塞(こうそく)などを認めた。

 集団訴訟をめぐり河村建夫官房長官は昨年11月、東京原告団の東京高裁判決(5月28日)を解決の「タイムリミット」と言明している。今月18日の広島地裁(第二陣)、5月の大阪、東京両高裁の判決も肝機能障害が焦点になるが、全国弁護団の宮原哲朗事務局長は「大阪、東京を待たず全面解決、基準の再改定へ政治判断を」と強調した。

 この日の判決後の定例会見で河村長官は、大阪、東京両高裁判断の重要性も強調。厚生労働省の被爆者医療分科会が肝機能障害を積極認定に加えるかどうか検討している点を踏まえ、「東京の判決を含めた一連の司法判断を受け分科会の意見をとりまとめるべきだ」と述べた。

非常に厳しい判決
 厚生労働省健康局総務課の岡部修課長の話 全体として非常に厳しい判決。今後の対応は詳細を確認し、関係省庁と協議して検討したい。

(2009年3月13日朝刊掲載)


<解説> 国基準の見直し必要

■記者 岡田浩平

 東京高裁が12日、肝硬変を原爆症と認めたことは訴訟の解決、被爆者の救済拡大を大きく後押しする要素となりそうだ。国が上告に踏み切るかどうかが当面の焦点となるものの、認定基準のさらなる見直しは避けられない情勢と言える。厚生労働省は原告全員を原爆症と認めた昨年5月の仙台、大阪両高裁判決を「最高裁で争う強い理由はない」と上告しなかった。大阪で認められた甲状腺機能低下症は判決確定後の審査で認定し始めた。こうした経緯からも今回、原告側が東京高裁で勝訴した意義は極めて大きい。

 厚労省は、有識者の被爆者医療分科会で肝硬変など肝機能障害を積極認定に加えるかどうか検討に入っている。与党の被爆者対策プロジェクトチームの提言を受けたからだ。「分科会に議論を丸投げし、結論はいつになるのか」と、被爆者の不満は募る。

 司法も高裁段階で肝機能障害を認定すべきとの考えを示した。従来の方針をかたくなに守るだけでは、被爆者行政への理解は得られない。

原爆症認定
 がんなどを発病した被爆者が被爆者援護法に基づき、厚生労働省に申請。①原爆の放射線が原因②治療が必要―と認定されると、月額約13万7000円の医療特別手当が支給される。申請を却下された被爆者らが2003年以降、処分取り消しなどを求める集団訴訟を各地で相次いで提起。敗訴が相次いだ国は昨年4月、爆心地から約3・5キロ以内での被爆などにより、がんや白血病などの5疾病になった場合、積極的に認定する新基準を導入した。

(2009年3月13日朝刊掲載)


「国は敗訴受け入れを」 広島の原告団 18日も勝訴期待

■記者 森田裕美

 原爆症認定の集団訴訟で、肝機能障害への原爆の影響を高裁レベルで初めて認めた12日の東京高裁判決。被爆地・広島での地裁判決を18日に控える原告や支援者は、原告勝訴の判決を評価しながらも、敗訴を重ねても争い続ける国へのいらだちをにじませた。

 広島地裁の判決を待つ原告23人のうち、18人は昨年4月から国が適用する新基準で認定済み。未認定の5人は、東京高裁の原告と同じ肝機能障害など、新基準が積極認定の対象としない疾病での認定を求める。

 「希望を持てる判決。でも国がすんなり受け入れるだろうか」。広島市中区の広島弁護士会館で記者会見した広島原告団の玉本晴英副団長(78)は不信感を言葉にした。

 全国で相次ぐ集団訴訟で国は14連敗。司法の場で新基準の不備が指摘されても控訴を続け、認定制度の再見直しや訴訟の全面解決には応じない。

 「原告は肉体的にも精神的にも限界。この辺ですべての裁判を打ち切って」と玉本さん。弁護団の二国則昭事務局長は「判決の積み重ねは国への圧力になる。広島地裁も勝利を確信している」と述べた。

(2009年3月13日朝刊掲載)


全面解決へ「いい日」 千葉の原告被爆者ら

■記者 道面雅量

 原爆症認定を求め、一審に続き12日の東京高裁で国に勝訴した千葉県の被爆者らは、肝機能障害を原爆症と認めた初の高裁判断を喜び、認定基準の再改定や一日も早い全面解決を求めた。

 判決後、原告側は都内で記者会見。鈴木守弁護団長は「多くの原告を救うため活用したい」と判決を高く評価した。肝硬変が原爆症と認められた原告の高田末子さん(69)は「肝機能を患う被爆者の代表のつもりでやってきた。いい日になった」。新基準で認定済みの原告、朝比奈隆さん(77)も「放射線が何をもたらすか、世界に発信する判決だ」と強調した。

 報告集会には、日本被団協のメンバーら支援者たち約100人が集まった。与党の被爆者対策プロジェクトチームの中心で取り組んできた自民党の寺田稔衆院議員(広島5区)は「国に上告する理由はない」と指摘。原告らはこの後、舛添要一厚生労働相との早期の面談を厚労省に申し入れた。

(2009年3月13日朝刊掲載)

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