×

社説・コラム

社説 「国・東電に責任」判決 原発避難者の救済急げ

 原子力災害では国内最悪となった東京電力福島第1原発事故は回避できた―。福島県から各地に避難した住民らが相次いで起こした訴訟で、そんな判決が定着しつつあるのではないか。

 事故により、ふるさとでの生活を奪われたとして神奈川県内への避難者が、国と東電に慰謝料などを求めた訴訟の判決である。横浜地裁はきのう、両者の責任を認めて賠償を命じた。

 同じような訴訟が全国の地裁や支部で約30件起こされている。判決はこれで8件目で、全て東電の責任を認めている。

 国の責任については、国も被告とした訴訟で判決が出た6件のうち、今回を含む5件で認められた。唯一、国を免責したのは2017年の千葉地裁だけだが、説得力を欠いていた。巨大津波の危険性は予見できたと認めたのに、仮に東電が対策を講じたとしても間に合わなかった可能性があることを理由としていた。何とも分かりにくい。

 巨大津波が予見できるのなら、東電や国の責任を認めるのは当然だろう。そう判断する司法の流れは、より確かになっていると言えそうだ。

 横浜地裁も、国は津波の到来とそれに伴う全電源喪失の事態は予見できたとした。非常用電源設備が巨大津波に襲われても水没しないよう、地下から高い場所に移すなどの対策を講じていれば、事故は回避できたはずだ、というのである。

 判決は、原子力安全委員会が東電の津波対策が基準に適合するとした判断について「看過しがたい過誤、欠落があったというほかない」とも指摘した。

 強い調子に驚く人がいるかもしれない。しかし国会が設けた事故調査委員会の結論と重なる部分が多いと言えよう。

 国会事故調は「事故は自然災害ではなく明らかに人災」と断定した。当時の原子力安全・保安院や原子力安全委などの規制当局と、東電との長年の「なれ合い」で事故対策がおろそかになったとみている。ともに安全への責任を負わず「意図的な先送りや不作為、自己の組織に都合の良い判断」を重ねてきたと厳しく批判している。

 今回の判決も、東電に対する規制権限を国が行使しなかったことは著しく合理性を欠き、違法だと判断した。うなずけるのではないか。

 ただ賠償額については避難者に不満が残りそうだ。1人2千万円の「ふるさと喪失」への慰謝料など原告175人で計約54億円の賠償を求めたが、横浜地裁が認めたのは、請求額の1割にも満たなかった。

 家や仕事を奪われ、地元企業への就職内定が取り消された子を持つ原告もいる。「人生を狂わされた」との言葉は重い。賠償額が抑えられ、救済は不十分だと言わざるを得ない。

 事故から間もなく8年。高裁や最高裁まで争えば、さらに歳月が過ぎ、避難者の負担は増すだろう。国や東電は早急な救済へ責任を果たさねばならない。

 気になるのは早期救済を目的とした裁判外紛争手続き(ADR)があるのに、打ち切られるケースが相次いでいることだ。和解案が示されても、東電が再三拒否しているという。

 国は、東電が真剣に取り組むよう強く求めるべきである。併せて賠償の在り方自体を見直す時期ではないか。

(2019年2月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ