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上関原発 埋め立て免許 判断先送り 1年程度 山口知事が表明

 山口県の山本繁太郎知事は4日の県議会代表質問で、中国電力の原発建設計画の予定地(同県上関町)公有水面埋め立て免許の延長について、許可不許可の判断を先送りする方針を正式表明した。回答期限を1年程度とする補足説明を中電に求めて審査を継続し、免許は失効しない。

 自民党会派の代表質問に答えた。山本知事は審査過程で、2005年2月の国の重要電源開発地点の指定に変更はないとする中電側の主張を明らかにした上で、国のエネルギー政策における上関の位置付けを中電に証明させるには時間的な猶予が必要と強調。「免許延長の正当な理由の有無を判断できることになれば、行政処分できる認識に至った」と述べ、免許権者として対応する意向を示した。

 中電には回答期限を1年程度とする5度目の補足説明を求める考えを表明。2月末に県の内規で定める事務処理の標準期間を超過したが「特殊な事情下であり、期間延長はやむを得ない」とした。

 山本知事は本会議後の取材で昨年10月に延長申請を受けた際、報道陣に「不許可処分をすることになる」と発言したことについて、「記憶にない。申し上げたとすれば私の真意ではない」とした。さらに夕方、緊急会見を開き、昨年10月の発言は申請内容を吟味する前の認識で、積極的に不許可にする意図はなかったとした。

 中電広報部門は「知事答弁は国のエネルギー政策が定まっていないことを踏まえたと受け止めている。引き続き国の動向を注視し、適切に審査に対応していく」としている。(金刺大五、山瀬隆弘)

【解説】政権対応見極めか

 山口県の山本繁太郎知事が上関原発建設計画をめぐる公有水面埋め立て免許延長の判断を棚上げした背景には、民主党政権が掲げた「原発ゼロ」を見直す自民党政権の動向を見極めたい意向が働いたとみられる。ただ、「不許可」を明言していた知事の方針変更は国任せの県政を印象づけ、県民の不信感を招きかねない。

 山本知事は昨夏の知事選で免許失効方針を示した二井関成前知事の路線継承を訴えて初当選した。県議会の答弁でも「上関原発の土地利用計画は不透明」で現状では延長を認めないとする二井前知事の方針を踏襲した。

 知事与党の自民党の風当たりは強かったものの、免許権者として独自の裁量権を行使する姿勢をみせた二井前知事に対し、山本知事は昨年末の政権交代の余波もあり、最終決断をちゅうちょした格好。県幹部は「不透明といっても計画自体が消えたわけではない」と、県が国より先に上関原発の「進退」を決めにくい事情を明かす。

 山口県を「安倍首相の足下(そっか)の県」と表現する山本知事は、支持基盤の自民党や安倍政権の意向を無視できないとの見方もある。先送り判断は上関原発を建設したい中電の意向にも沿う。

 しかし、そうした判断の中に、県民の存在がどれほど考慮されているのか。昨年10月の不許可とする発言を事実上修正したが、知事の言葉は重い。原発に不安を感じる県民の思いは置き去りにされた感が否めない。(金刺大五)

中電、推進の余地残す 対話・広報 地元で続行

 山口県の山本繁太郎知事が4日、判断を先送りにした、上関原発(山口県上関町)建設の公有水面埋め立て免許延長。民主党政権により建設を認めないとされた同原発だが、中電にとっては推進の余地が保たれた形だ。

 中国電力にはこの日、山口県から埋め立て免許延長に向けた審査を続けるとの連絡が入った。山本知事はこれまで延長申請に対し「不許可」を明言しており、中電も知事判断を注視していた。中電は、国のエネルギー政策を注視しながら県の審査に対応する方針。

 2月末には、中電の漁業補償金の受け取りを拒否していた山口県漁協祝島支店(同町)が、受け取り方針へ転じた。これまで中電は同支店のある祝島に社員が上陸すらできない状態だったが、今後、対話の働き掛けを強めるとみられる。

 民主党政権が建設を認めないとする中、中電は建設推進の姿勢を維持してきた。昨年10月には「上関原発の必要性を考え、現状維持をしたい」と、埋め立て免許の延長を県に申請した。

 現在も地元準備事務所に50人強の従業員を配置。上関町での広報活動に加え、将来の工事再開に向けた調査などを続けるとしている。民主党政権の「原発ゼロ目標」の見直しを自民党政権は打ち出しており、中電は計画推進に向け、地元での広報活動などを強める可能性もある。(山瀬隆弘)

方針転換 賛否渦巻く 県議会「賢明だ」「公約違反」

 中国電力の上関原発建設計画予定地の埋め立て免許延長について当面は許可不許可を判断しない考えを表明した山本繁太郎山口県知事。国の原発新設などエネルギー政策見直しの動向を見極める狙いとみられ、県議会では「賢明な判断」「選挙公約違反」と賛否の声が交錯した。(門戸隆彦)

 山本知事は県議会代表質問で自民党会派の質問に答え、延長申請の審査を1年程度継続する考えを表明。埋め立て免許延長を「現状では認められない」とした二井関成前知事の方針を引き継ぐ考えを示していたのに、ここにきて態度を一転させた。

 上関町をエリアに含む熊毛郡区選出の吉井利行県議(自民党新生会)は「今後、国が建設にゴーサインを出した場合、免許が失効していると困る」と知事の方針転換を歓迎。自民党県連の伊藤博幹事長も「安倍晋三政権に配慮した判断だ」と冷静に受け止めた。

 公明党県本部の先城憲尚幹事長も「国のエネルギー政策の方向性を見定めた上で判断すべきだ」と理解を示した。

 山本知事は民主から自民への政権交代の影響を否定するが、今回の判断は国の動向を見極める狙いが色濃い。

 民主党県連の西嶋裕作幹事長は「県民に選ばれた知事として、主体的に判断できないのは寂しいことだ」と批判する。共産党県議団の藤本一規団長は山本知事のスタンスがあらためて鮮明になったと指摘。安倍首相が昨年末の県庁での会見で、民主党政権の原発新設ゼロ方針を見直す考えを示したことを引き合いに「国のゴーサインを期待する知事の思惑が透けて見える」とした。

 社民党県連合の佐々木明美代表も「即、不許可にすべきで、選挙公約違反だ」と厳しく批判した。

知事「有効な申請 吟味する」

 県議会一般質問の終了後の山本繁太郎知事と取材陣のやりとりは次の通り。

 ―「現状では免許の延長は認めない」とした二井関成前知事の方針を引き継ぐ考えは、撤回したのですか。
 いいえ。土地利用計画がきちんとできていないと許可はできない。有効な申請があった以上、免許権者としては吟味した上で判断する必要がある。

 ―知事選の公約違反との声もあります。
 いろいろな主張があり、コメントするのは適切でない。間違いのない判断をするのが知事の仕事だ。

 ―1年後には判断するのですか。
 事業者は主張の根拠を証明して、県が判断できるようにしてほしい。(1年の根拠は)事業者は1年ごとに事業計画を国に報告するので、その期間が適切と判断した。

 ―昨年末の政権交代の影響は。
 全くない。

 ―国のエネルギー政策が定まらないと判断できないのでは。
 いや、材料を事業者がきちんと証明できれば判断できる。

 ―県民の理解が得られると思いますか。
 もちろんだ。責任を持って判断するので理解してもらえると思っている。(門戸隆彦)

≪埋め立て免許をめぐる主な経緯≫

2008年10月20日 原発計画に反対する祝島の漁業者たちが免許差し止め(後に免許取り消しに変更)を求め山口
             地裁に提訴
        同22日 二井関成知事(当時)が中国電力に免許を交付
      12月 2日 計画に反対する環境保護団体などが免許取り消しを求め同地裁に提訴
  11年 3月15日 福島第1原発事故を受けて埋め立て工事が中断
  12年 6月25日 二井知事(当時)が免許延長を現状では認めない考えを表明
       7月29日 知事選で山本繁太郎氏が初当選。上関原発計画について二井知事の方針を踏襲する考えを表
              明
      10月 5日 中電が免許延長を申請。山本知事は「許可できない。不許可処分をすることになる」と明言
        同23日 県が延長申請の補足説明を要求
      11月22日 県が2回目の補足説明を要求
  13年 1月 4日 県が3回目の説明要求
        同30日 県が4回目の説明要求
       2月26日 山本知事が判断を当面先送りする方針を固める
       3月 4日 山本知事が県議会で先送り方針を表明

「裏切りだ」議場に怒号 反原発派住民 県議会が中断

 山口県上関町の中国電力上関原発建設計画に反対する住民の怒号が4日、県議会の議場に響いた。「公約違反だ」「県民を裏切るのか」―。怒りの視線の先には、埋め立て免許延長の判断先送りを表明した山本繁太郎知事の姿があった。一方で推進派は「国の方針を待つべきだ」と知事擁護の声を上げる。埋め立て工事中断から間もなく2年。山本知事の「方針転換」は新たな波紋を広げた。(久保田剛)

 県議会には反対運動の拠点である上関町祝島の島民ら約40人が詰めかけた。険しい表情で傍聴席に陣取り、知事答弁が始まると「何のための知事か」「辞めてしまえ」などと激しく批判した。

 議長の退場命令にも応じず、議事は約20分間も中断。「発言はできない」と諭す県職員に、祝島で漁業を営む女性は「生活のため30年間も闘ってきた。知事は傍聴席に上がってきて説明して」と詰め寄った。

 3人が退場させられて議事が再開しても怒号は止まらない。山本知事が1年程度の判断先送りを明言すると、祝島の農業山田建夫さん(65)は「うそをつくのが県民のトップか」と吐き捨てた。上関原発を建てさせない祝島島民の会の山戸孝事務局次長(35)は「山本知事はわれわれにとって、もはや知事ではない」と話した。

 衆院選で政権復帰した自民党は、民主党政権が掲げた「原発ゼロ方針」を撤回した。

 上関町の原電推進議員会の右田勝会長(71)は「知事は国策に従うと言ってきた。判断は当然だ」。推進派の住民団体「上関町まちづくり連絡協議会」の井上勝美顧問(69)も「安全に万全を期そうと国が時間をかけている。知事が決められる問題ではなく、責められない」とかばった。

地元・周辺首長 多様な反応 国は早急に方向性を/慎重になるのは当然

 上関原発建設予定地の公有水面埋め立て免許について、山本繁太郎知事が許可不許可の判断を先送りする方針を示した4日、地元上関町や周辺の市町にはさまざまな反応が広がった。(久行大輝、滝尾明日香)

 町役場で会見した上関町の柏原重海町長は「国は早く(原子力政策の)方向性を出してほしい」と切望。「知事と話していないので真意は分からない」としたうえで、「高齢化や人口減が進む厳しい現実がある。結論が出ないと、その間(建設か中止か)二つの道を探っていかないといけないから、好影響か悪影響は別にして影響が出ないことはない」と話した。

 周防大島町の椎木巧町長は「適切な判断。既に建設されている原発ではなく、新規のもの。衆院選で政権が交代し、国のエネルギー政策の見通しが不透明な現時点では仕方ない」と理解を示した。

 田布施町の長信正治町長も「驚きはない。長い年月協議してきた計画。慎重になるのは当たり前」と評価。さらに「知事は県民に、判断の理由を十分説明してほしい」と注文した。

 一方、柳井市の井原健太郎市長は「県や国などの議論の行方を見守りたい」と慎重な口ぶり。平生町の山田健一町長も「引き続き国や県の動向を注視していく」と述べるにとどめた。

 昨年9月の市議会で「現状では上関原発に賛成できない」と発言し、原発交付金の受け取りも否定している光市の市川熙市長は「知事が判断されたことでありコメントする立場にない」との談話だけを出した。

(2013年3月5日朝刊掲載)

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