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社説・コラム

天風録 『民意の響』

 1975年、当時皇太子だった天皇陛下は初めて沖縄を訪問される。名護市にあるハンセン病療養所の沖縄愛楽園にご夫妻で足を運んだ。偏見や差別に苦しめられた入所者の手を取っていたわった▲帰り際、歌い継がれてきた船出の祝い歌「だんじゅかりゆし」の合唱で送られる。その感動を陛下は、ひそかに独学していた伝統の琉歌(りゅうか)で詠んだ。曲も付いた「歌声の響(ひびき)」が在位30年記念式典であらためて披露された。歌手の三浦大知さんに向けた両陛下のまなざしが印象に残る▲くしくも沖縄では県民投票の日だった。米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古沿岸部の埋め立てに「反対」が7割を超えた▲「国民統合の象徴」の在り方を追い求めてきた陛下だが、在位式典でのあいさつは沖縄に限らず多くの人に響いたことだろう。憲法9条にある「平和を誠実に希求」から語句を引用した▲自らの戦争体験に基づき、陛下が続けてきた「慰霊の旅」は各地で共鳴を生んでいる。平成の世の終わりまで残り2カ月余り。戦後70年が過ぎても基地問題に苦しめられる沖縄は、いつになれば新たな船出ができるのか。「民意の響」を政治が踏みにじることのないように。

(2019年2月26日朝刊掲載)

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