×

ニュース

日常の痕跡にフォーカス 戦争遺跡シリーズの下道基行さん 

 戦争遺跡の写真シリーズで知られる岡山市出身の美術家下道基行(したみち・もとゆき)さん(34)が、広島市現代美術館(南区)で開催中の「路上と観察をめぐる表現史」展に新作を出品している。レンズを向けたのは、溝に渡されたコンクリート片や、ごみ袋にかぶせられたバケツなど、街角で目に留まった小さな創意工夫の痕跡。一見、戦争から日常へと変遷したかに思われる創作のテーマについて聞いた。

 下道さんは2005年、日本や韓国に残る旧日本軍の建造物を撮った写真集「戦争のかたち」(リトルモア)を出版。今は展望台として活用されている砲台や、かまぼこ形の戦闘機の格納庫を再利用した民家などを取り上げ、注目を集めた。

 「『戦争という歴史にフォーカスを当てた』と言われたが、自分はそんな大きなテーマよりも、人々が戦争遺跡とともに暮らして『新しい風景』を生み出していることに興味があった」

 全国の街角で撮影した新作「つなぐもの」「かぶすもの」シリーズも、その延長にある。溝をまたいだ通路をつなぐために置かれた板きれやコンクリート片、カラスや猫を防ぐためごみ袋にかぶせられたバケツや箱、ネット…。「人々が生活していくことで生まれる風景を捉えた点では、『戦争のかたち』と同じなんです」と明かす。

 武蔵野美術大で油絵を学んだ後、独学で写真を撮り始めた。きっかけは、東京で偶然見つけた戦時中の変電所跡。くすんだコンクリート壁に無数の弾痕が残っていた。「自分がわざわざ絵を描かなくても、こんなに面白い風景があるじゃないか、と気付かされた」

 本展は、昭和初期に考現学を創設した今和次郎を起点に、街角の風景を題材にする前衛美術家の赤瀬川原平さんや人気アーティスト大竹伸朗さんたち11人と6グループの作品約350点を展示している。

 下道さんは「つなぐもの」「かぶすもの」シリーズの写真と、被写体となった板やバケツを並べたインスタレーション(空間構成)に挑んだ。「みんな影響を受けた人ばかり。彼らとどう違ったことができるか。写真を離れた表現も追求していきたい」(西村文)

    ◇

 「路上と観察をめぐる表現史―考現学以後」展は、中国新聞社などの主催。4月7日まで。月曜休館。

(2013年3月5日朝刊掲載)

年別アーカイブ