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被爆の惨状 実物で迫る 原爆資料館の新展示公開 訴える力 評価・期待

 リニューアルオープンする原爆資料館本館(広島市中区)で、同館が8日公開したコーナー「8月6日の惨状」のメイン展示は、動員学徒の遺品と、爆風でゆがんだ鉄扉などの大型資料を組み合わせた。本館は実物資料を中心に「被爆の実相」を伝える場と位置付けており、その導入部の空間となる。展示検討会議の委員からは4月25日の開館に向け、手法への評価や、伝え方の工夫に期待する声が上がった。(明知隼二、桑島美帆)

 焼け焦げた女学生の制服やもんぺ、水筒、弁当箱、かばん…。集合展示のガラスケース内に並ぶ遺品が、米国が投下した原爆が奪った学徒の日常を物語る。「あの日」を感じてもらう手法に、検討会議の副委員長を務める市立大広島平和研究所の水本和実副所長は「国籍を問わず想像力をかき立てる。原爆の非人道性、人間の被害の悲惨さが伝わる展示になっていると思う」と評価した。

 元広島女学院大教授の宇吹暁委員も「同世代の修学旅行生にも伝わりやすい」とみる。一方で「なぜ遺品がこれだけ残ったのか。手元に残し、資料館に託した家族の思いを、引率する大人の解説で補ってあげる必要がある」とも注文した。  壁には、全身にやけどを負った男性や、目を治療する負傷者などの生々しい写真も並ぶ。被爆者が描いた「原爆の絵」も、炎に追われる人たちや変色した遺体など、記憶に刻まれた惨状を伝える。

 広島諸事・地域再生研究所代表の石丸紀興委員は「写真は直視できないようなものもあるが、それゆえに『こんな世界があっていいのか』という問いになっている」と評価。資料館一帯にかつて人の営みがあったことを伝えるため、平和記念公園内で市が調査する旧中島地区の遺構とも連動させるよう工夫を求めた。

 視察に先立ち、広島国際会議場(中区)で、リニューアルの方針や内容を議論してきた展示検討会議の最終会合があった。資料館側は、できるだけ多くの資料を展示したり、資料の傷みを避けたりするため、展示する遺品などの実物資料を1~2年に1回入れ替える方針を説明。テーマを決めた企画展も継続的に開催するとした。

 会議は2010年に発足し、この日で25回目。今中亘委員長は「科学的、客観的な視点を重視し、議論を重ねてきた。来館者が自ら平和を考え、行動につなげられる展示になっていると思う」と話した。

(2019年3月9日朝刊掲載)

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