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社説・コラム

天風録 『ブレグジットというお化け』

 心に潜む畏れや恐怖がさまざまに変化し、お化けを生み出すようになったと民俗学者の柳田国男は言う。日本では、地震や飢饉(ききん)など繰り返される災厄に警鐘を鳴らす存在でもあったと▲何が起きるか分からない―。そんな警戒感が欧州を覆っている。混迷を深めるブレグジット(英国のEU離脱)の行方が見通せない。もし英国がEUと何の合意のないまま離脱すればどんな混乱が待ち受けているのか▲ブレグジットを青い毛むくじゃらの怪物に見立てたオランダ政府のキャンペーンが話題だ。机の上にふんぞり返る怪物の写真を公式サイトに載せ、「仕事の邪魔にならないよう周到な準備を」と国民に呼び掛ける▲えたいの知れない怪物と向き合うのをためらったのだろうか。勝手放題をしていた英議会がここにきて離脱の延期をEUに求めていくことで一致した。それでも、「合意なき離脱」の可能性がなくなったわけではない▲そうなればモノと人の行き来がストップし、国民生活が立ちゆかなくなる。英国の歴史家トーマス・カーライルは「世界で一番愚かなことをしゃべり、もっとも賢明なことを行うのが英国人である」と言った。お化けをおそれることが賢明だ。

(2019年3月17日朝刊掲載)

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