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社説・コラム

天風録 『AI兵器』

 将棋の羽生善治氏は、人工知能(AI)を搭載したソフトの強さに舌を巻くが、違和感も覚えるそうだ。「棋譜が美しくない」。山中伸弥氏との対談集「人間の未来 AIの未来」で語っている▲人間の棋譜には継続性や一貫性を感じるという。つまり、AIは局面が変わるたびに優劣を機械的に判断し、先の先のその先を読む。しかし、急戦か持久戦かといったそもそもの戦略に欠け、対局の流れを把握した上で次の一手を選ぶ大局観もない▲しばしば末恐ろしくなるAIの先行き。米国やロシアが開発中という究極のAI兵器「殺人ロボット」が象徴だろう。敵か味方かの識別や攻撃に移るタイミングなど全てがAI任せ。人間は遠隔操縦もしないから、まさに自分の手を汚さずに済む▲同盟国に遠慮してか、わが政府は国際的な規制に慎重だった。来週からスイスで始まる国連会議でも「せめて人による制御を」と中途半端な主張にとどまりそう。絶対反対という明確な大局観を持ち、禁止条約という詰みをなぜ目指さないのだろう▲羽生氏が指摘する通り、AIがミスしないというのは大いなる錯覚に違いない。人間がとことん、戦争回避の一手にこだわるしかない。

(2019年3月19日朝刊掲載)

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