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広島本大賞 受賞2人に聞く

 第9回広島本大賞に選ばれた青春小説「愛と勇気を、分けてくれないか」(写真左・小学館)と、ノンフィクション「原爆 広島を復興させた人びと」(同右・集英社)。それぞれの著者で、作家・フリーライターの清水浩司さん(47)と、ノンフィクション作家の石井光太さん(42)に受賞の喜びや作品に込めた思いを聞いた。(増田咲子)

「愛と勇気を、分けてくれないか」 清水浩司さん

「この街で生きる」覚悟重ね

 1980年代後半の広島を舞台にした「愛と勇気を、分けてくれないか」は清水さんにとって14年ぶりの長編小説だった。「受賞は広島に住む書き手としてうれしいし、次の作品を書く自信にもなる」と受け止める。

 父の転勤に伴って各地を転々としてきた高校2年の桃郎は88年、広島に引っ越してくる。若者同士で地元を盛り上げる組織に参加し、出会った少女の小麦に恋をする。作中、旧市民球場(広島市中区)に象徴される当時の街の風景も再現される。

 岡山市で生まれた清水さん自身、中国地方で引っ越しを繰り返した。広島市内の中学、高校に通い、「青春時代を過ごした広島は自分の原点」になった。東京の大学へ進学後、編集者として働く中、妊娠中の妻にがんが見つかった。妻は2009年に帝王切開で男児を出産した翌年、この世を去った。11年4月、妻との闘病生活をつづった「がんフーフー日記」を刊行し、同年10月、「ふるさと」である広島へ戻ってきた。

 あらためて広島と向き合った清水さんは「忘れられがちな近過去の風景を残したかったし、自分自身が広島で暮らしていくことを納得したかった」と言う。物語の終わり、「うちはこの街で生きていく」という一文がつづられる。「作中のキャラクターがそう覚悟を持つ過程に自分自身を重ねた」と振り返る。

 そのうえで「10代の頃の熱くて不器用で純粋だった自分がいて、今がある。過去を忘れてはいけない。それが今作のメッセージの根幹」と語る。

「原爆 広島を復興させた人びと」 石井光太さん

資料館への願い 伝えたい

 原爆資料館(中区)の初代館長を務めた長岡省吾氏らを通し、広島の復興を描いた「原爆 広島を復興させた人びと」。約3年の取材を経て刊行した石井さんは「原爆からよみがえった広島の象徴の一つが資料館。どのような人たちの平和への願いで成り立ったかを伝えたかった」と話す。

 本作に登場するのは原爆の惨禍を刻む被爆資料を収集、研究した長岡氏のほか、元広島市長の浜井信三氏、平和記念公園を設計した丹下健三氏、7代目館長の高橋昭博氏という資料館に関わる4人。彼らの人生の光と影を群像ノンフィクションで描いた。

 原爆に関心を持ったのは学生のころ。親しくしていた被爆3世の女性から、子どもを産むことに不安を抱えていると打ち明けられた。その後、東日本大震災の被災地へ行き、広島が原爆からどう立ち上がったかを知りたいと思った。14年、テレビの仕事で広島を訪れた際、その功績があまり知られていない長岡氏について知り、「この人をひもとくと、この街がどう復興したのか分かるに違いない」と感じたという。

 05年に東南アジアなどで物乞いを取材した「物乞う仏(ぶっ)陀(だ)」でデビュー。貧困や震災などをテーマに執筆してきた。根底にあるのは、「人間の生きる強さを伝えること」という。

 今作の取材を振り返り、「人間の力は原爆の力よりはるかに強い。平和への願いや未来をよくしたいという思いは、強烈な破壊をも乗り越えてしまう」と力を込める。

(2019年3月23日朝刊掲載)

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