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海賊対策 呉の2艦がソマリア沖へ出港  

■記者 清水大慈

 アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、海上自衛隊呉基地が母港の護衛艦さざなみ(4650トン)、さみだれ(4550トン)の2隻が14日、現地に向け出港した。自衛隊法に基づく海上警備行動での自衛隊の海外派遣は初めて。2週間程度で到着し4月上旬から日本関連船の護衛を始める。

海警行動 初の海外派遣

 基地内のバースであった出港行事には、麻生太郎首相、浜田靖一防衛相らが出席。麻生首相は「困難を伴う任務だが安全航行の確保を確信している」などと訓示し、乗組員約400人を激励した。

 派遣部隊の指揮官となる第八護衛隊司令の五島浩司一佐は「部隊一丸となって任務を完遂する」と決意表明。午後2時すぎ、甲板に乗組員が整列した2隻が出港すると、家族ら約1200人が手を振るなどして見送った。

 ソマリア沖での護衛対象は、原則として日本関連船。武器使用は警察官職務執行法を準用し、正当防衛・緊急避難に限定される。

 政府は、接近する海賊船への船体射撃を認め、外国船も護衛対象に加える新法「海賊対処法案」を閣議決定済み。成立すれば、活動根拠を海上警備行動から新法に切り替える。

 護衛艦には、海賊の身柄確保に備え、司法警察権を持つ海上保安官計8人が同乗。海賊船への射撃などを想定し、海自隊の特殊部隊「特別警備隊」隊員も乗り込む。各艦、哨戒ヘリコプター2機と高速ボート2隻も搭載。防衛省はP3C哨戒機の派遣準備も進める。

 2隻の補給拠点はジブチ、イエメン、オマーン。同省の実施要領などでは、ソマリア沖アデン湾の東西に護衛艦と民間船舶の合流地点を設定し、前後を護衛艦が挟んで海域を通過する。

 この日は基地周辺で派遣に反対の団体が海上デモなどを実施。広島県警や第六管区海上保安本部が警戒にあたり、大きな混乱はなかった。

(2009年3月15日朝刊掲載)


<解説> 法整備遅れ 危険はらむ

■記者 渡辺拓道

 呉基地の護衛艦2隻は、海上警備行動に基づく海上自衛隊の初の海外派遣で武装した海賊と直接向き合う。武器使用を正当防衛と緊急避難に限定した、法整備なき派遣。後方支援が中心だったこれまでの国際貢献と違い、「銃撃戦」が起きる危険性をはらむ。

 政府は、出港前日に閣議決定した新法「海賊対処法案」で、警告しても接近する海賊への船体射撃を容認した。法が成立すれば、新基準が適用になる。

 今回の派遣は、領海侵犯を想定した海上警備行動を「応急措置」として使う。新法の成立なら、海賊対策でどこにでも派遣が可能になる。その先には、国際平和協力活動で随時派遣を可能にする一般法の整備が視野にある。緩和した武器使用の基準を、むやみに準用してはならない。

 さらに、海賊対策は「日本国民の生命、財産を守る」ことを大義とする。仮に将来、海外の陸地部で同様の事態が起きた場合、どう歯止めをかけるのかは不透明だ。

 呉基地は、新テロ対策特別措置法に基づくインド洋での給油活動などのため、昨年11月から補給艦とわだを派遣中。今回は先陣を切って新任務に就く。呉市民100人への中国新聞の聞き取り調査では、基地と共存する街だけに51人が派遣を評価。評価しない人の最大の懸念は「生命の危険がある」だった。隊員や家族の心中は察するに余りある。

 海外任務は、国連平和維持活動(PKO)協力法、旧、新テロ特措法など法整備のたびに拡大してきた。新法の国会審議で必要なのは、海外での武力行使を禁じた憲法などとの整合性を含め、「なし崩し的な派遣」を許さないための理念と枠組みをつくり上げることだ。

(2009年3月15日朝刊掲載)

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