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社説・コラム

社説 艦載機 岩国移転1年 住民目線で影響検証を

 米軍岩国基地(岩国市)への空母艦載機の移転完了から、きょうで1年を迎えた。厚木基地(神奈川県)の約60機を加えて所属機は約120機と倍増し、極東最大級の航空基地である。

 懸念の一部が現実になっているのではないか。増加する騒音が市民を悩ませる。

  激しい爆音で電話が聞こえなくなったり、会議を中断したりしているという。市によると、基地南側の地点では移転前の1年間と比べて1・4倍の8600回を超す騒音を計測した。無視できない数字だ。年間を通じて1時間ごとに爆音を聞いている計算になる。

 地元が移転を受け入れた条件の一つが、2010年の滑走路の沖合移設前より生活環境が悪くならないことだった。市と山口県がこの1年間の騒音状況を検証し、国に対策を求める方針を示したのは当然だろう。

 ただ、福田良彦市長の姿勢には違和感を覚える。26日の記者会見で「全体として悪化しているとはいえないのではないか」との認識を示した。つまり、地点や時期で異なる騒音の大きさや回数を平均すれば、悪化していないと言いたいようだ。

 住民にとっては、それぞれの自宅や職場で騒音がひどくなることは、生活環境の悪化にほかならない。騒音がひどくない地点と抱き合わせて平均したデータで判断するつもりなら無理があろう。

 市や県は、米軍機の騒音を公害と捉えているだろうか。受忍限度を超えるような騒音が生じているのなら、それが限られた地点や期間であっても改善しなければならない。検証作業も住民目線で進むように第三者を加えてもらいたい。

 騒音被害を訴える声は、広島県内でも上がっている。野鳥などの生息環境への影響も気がかりだ。広島側の基地周辺の自治体も検証に乗り出してもいいのではないか。

 情報開示を巡る米軍の姿勢にも目を凝らす必要がある。軍事上の機密があるにせよ、地域が米軍を信用する上で、一定の情報開示は欠かせない。

 米軍は昨年末、正月三が日の軍用機運用を「極めて最小限に絞り込む」と異例の事前公表をした。実際に今年の三が日に基地周辺で測定された米軍機の騒音はゼロだった。これまで市が自粛を要請しても、飛行が繰り返されていた。地域の声に耳を傾けた結果なら評価できよう。

 一方で、滑走路の時間外運用に関する市への通知内容は後退した。滑走路を共用する海上自衛隊に代わり昨秋から米軍が通知するようになると、米軍と海自のどちらが使ったのかを明かさなくなった。一端ではあるが、こんな姿勢では米軍への不信感が募るに違いない。

 所属機は昨年11月に艦載機1機が墜落。翌12月には夜間訓練中に海兵隊機2機が接触し、乗員6人が死亡した。相次ぐ事故やトラブルに、私たちが重大なリスクと隣り合わせであることを思い知らされる。

 米軍機の運用時間などを定めた市と山口県、国、基地による岩国日米協議会が1991年を最後に開かれていないのは問題だ。お盆の飛行自粛といった協議会で決めた確認事項の一部は形骸化している。一刻も早い再開が必要である。それは地域の不安を拭うためにも譲れない。

(2019年3月30日朝刊掲載)

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