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社説・コラム

社説 広島市長に松井氏3選 被爆地の重み再認識を

 広島市長に松井一実氏が3選された。自民、国民民主、公明各党と連合の推薦を得て、2人の新人を寄せ付けなかった。

 選挙戦は盛り上がりを欠いたが、まちづくりなど2期8年の実績が評価されたと言えよう。レールが敷かれていたとはいえJR広島駅(南区)周辺の再開発が進んだ。景気の後押しもあり、相次ぐホテル建設をはじめ民間投資の拡大につながった。

 大型事業は今後もめじろ押しだ。中区の中央公園を最終候補地に決めたサッカースタジアム建設に加え、路面電車の駅前大橋線新設を含む広島駅南口広場の再整備や紙屋町・八丁堀地区(中区)の活性化などである。

 市の魅力が高まるとの期待もあろう。ただ身の丈に合った投資でなければ、いずれ自らを苦しめることになりかねない。

 気になるのはアストラムラインの延伸計画だ。国か自治体かを問わず、採算性を甘く見積もって巨額の赤字を生んでしまった公共事業は少なくない。アストラムがそうならないよう延伸で乗客はどれほど増えるのか、費用対効果は十分高いのか、慎重に見極めなければならない。

 8年前の初当選後に自らが白紙に戻した旧市民球場跡地(中区)は、ようやく具体的な活用案作りに入る。屋根付きイベント広場を軸にした計画のままで市民の理解が得られるのか。市長の力量が問われる。

 まず急ぐべきは防災・減災だろう。5年前の広島土砂災害や昨年の西日本豪雨では大きな被害が出た。その教訓を生かさねばならない。老朽化が進む橋の補修や架け替え対策も着実に進めていくことが必要だ。

 少子高齢化が進み、市の人口もやがて減少に転じる。周辺を含めた地域の魅力にいかに磨きをかけるか、都市間競争に生き残るため不可欠だ。市の借金が1兆円を超え、財源が限られる中、少子高齢化・子育て対策など多岐にわたる課題をバランス良く進めなければならない。手腕の見せどころではないか。

 一方で、被爆地の市長としては物足りなさが残る。例えば核兵器禁止条約について、なぜ被爆地の主張を政府に堂々とぶつけないのか。被爆地の長年の訴えが実を結んだと言える条約である。積極的に署名、批准すべきだと政府に強く迫るのは被爆地として当然の行動だろう。

 政府は究極的な核兵器廃絶を唱えながら具体的な道筋を描こうとはしてこなかった。禁止条約にも、米国の顔色をうかがっているのか、背を向け続けている。そんな「欺瞞(ぎまん)」を被爆地広島が許しておいてはいけない。

 核兵器の違法性を巡る国際司法裁判所(ICJ)での意見陳述など、政府と立場が違うことは今まで何度もあった。それでも言うべきことは訴え続けてきたのが広島市だったはずだ。

 今、米国やロシア、中国などは小型核兵器の開発など軍拡路線を進めている。列強が勝手放題する時代に戻るのか。核兵器をなくして理性と対話の国際関係を築くのか。岐路にあるからこそ被爆地からの発信が重要となる。広島の持つ重い使命をあらためて認識する必要がある。

 都市の魅力を磨き、核なき世界への発信を強めるため、松井氏は市民の目に見える形で、今まで以上にリーダーシップを発揮しなければならない。負託に応える道にもなるはずだ。

(2019年4月8日朝刊掲載)

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