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第五福竜丸の悲劇 見て聞いて体験 東京の展示館 リニューアル

証言コーナーや船内3D映像

 東京都江東区の夢の島公園にある都立第五福竜丸展示館が、9カ月間に及ぶ改修工事を終え、今月、新装オープンした。老朽化した施設を初めて全面的にリニューアル。米国の核実験に巻き込まれた漁船の悲劇を後世に伝え、核兵器廃絶を訴える展示を充実させた。

 第五福竜丸は静岡県焼津市のマグロ漁船。1954年3月、太平洋上で米国の核実験による「死の灰」(放射性降下物)を浴び、乗組員23人が被曝した。

 東京水産大の練習船として使われた後、ごみの埋め立て処分場だった夢の島に放置された。しかし保存を求める市民運動を受け、都は76年、展示館での保管と公開を始めた。それから40年余り。近年は施設の雨漏りや床の沈下による船体への影響が懸念されていた。

 「原水爆の惨禍を伝える大事な船を後世に残すため、保管に適した環境をつくる必要があった」と主任学芸員安田和也さん(66)は説明する。

 都は約2億円を投じ、全長約30メートルの船体が破損しないよう屋根や壁、床を張り替えた。さらに、被曝の記憶を継承しようと、元乗組員大石又七さん(85)=東京都大田区=の証言映像のコーナーも新設した。約7分の映像で、大石さんは健康不安を抱えた日々を振り返り、「勉強して(核が)本当に怖いんだと知ってほしい」と語り掛ける。

 通常は立ち入ることのできない船内の3D映像も上映。見る人が船内を歩いているような感覚を味わえるようにした。第五福竜丸を題材にした絵本のパネル展示も幼い子どもに人気だ。

 児童生徒・学生の団体見学は年約400校に上る。学芸員やボランティアによる講話が好評で、常連校も多いという。ただ、中国地方からは少ない。学芸員蓮沼佑助さん(29)は「核実験の被害は原爆と地続きの問題。核問題への学びを深め、被爆地広島、長崎を見つめ直す場にしてほしい」と修学旅行などの機会を捉えた来館を期待する。

 28日~6月16日には工事経過を伝える写真や模型を展示する。入館無料。月曜休館。☎03(3521)8494。(田中美千子)

(2019年4月22日朝刊掲載)

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