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苦難伝えるトランク カウラ事件とハンセン病 東京で公開

 戦時下にオーストラリアで起きた日本兵捕虜の脱走暴動「カウラ事件」の生存者で元ハンセン病患者、立花誠一郎さん(2017年に96歳で死去)の手製トランクなど捕虜収容所時代の遺品が、東京・九段のしょうけい館(戦傷病者史料館)で公開されている。国立療養所邑久光明園(瀬戸内市)で生涯を送った立花さんが生前、同館に寄贈していた。

 陸軍通信兵だった立花さんはニューギニア戦線で捕虜になり、豪カウラの収容所でハンセン病を発症。トランクはまともな道具もない中、編み上げ靴の革や収容病棟の材を切るなどして仕上げた。11個を仲間に作ってやり、1個を復員船で持ち帰っていた。

 事件は捕虜の汚名をそそぐ「死への決起」とされている。戦時下に通達された「戦陣訓」の呪縛である。とはいえ戦争が終われば、立花さんのような普通の兵隊は生きて祖国に帰ることへの執念を取り戻したのかもしれない。トランクは無言の証人といえよう。

 同館の木龍克己学芸課長は「戦時下に捕虜の身となり、しかもハンセン病を発症して、いわれなき差別を受けなければならなかった中での作品。時代背景を知れば、そのすさまじさがおのずと理解できるだろう」と語っている。

 展示は春の企画展「〝想(おも)い〟を込めて―作品からみる戦傷病者」の一環。立花さんの証言映像も視聴できる。5月6日まで。入場無料。(特別論説委員・佐田尾信作)

(2019年4月23日朝刊掲載)

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