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社説・コラム

社説 令和の課題 核なき世界 被爆地の役割変わらぬ

 昭和から平成になっても、広島と長崎の両被爆地が果たすべき役割は変わらなかった。令和がきょう始まっても、変化することはあるまい。核兵器のない世界が実現するまでは…。

 平成の間に世界の核兵器は激減した。元年だった30年前、核軍拡競争を繰り広げていた米国とソ連(現ロシア)が東西冷戦の終結を宣言した。ピーク時には7万発を超えていた核弾頭は今、1万4千発余りに。両国が軍縮で合意し、大幅に減らしたからだ。被爆地の訴えで核兵器は「非人道的」との認識が広まったことも大きかったろう。

後戻りする懸念

 それでも納得できる状況ではない。一つ一つが広島、長崎に投下された原爆とは桁違いの力を持つ。数も、人類を何度も滅亡させられるほど残っている。

 近年、地球上の核兵器の約9割を持つこの二つの核超大国の横暴が目に余る。トランプ米政権は、爆発力を抑えた小型核弾頭の製造に乗り出した。

 ロシアが中距離核戦力(INF)廃棄条約を破って新型ミサイルを配備している、とトランプ政権は非難し、条約破棄を表明した。このまま8月に条約が失効すれば、核・ミサイルの軍縮管理分野が30年は後戻りする、との懸念の声が国際社会から上がるのも当然だろう。

 ただでさえ不安定な中東に関しても米国の政策は危うい。事実上の核保有国であるイスラエルには、ゴラン高原の主権承認など過度にてこ入れしている。

 逆にイスラエルに敵対するイランには厳しい。その象徴が、国際社会の粘り強い努力で核開発に歯止めをかけたイラン核合意からの一方的な離脱である。イラン国内で対米強硬派が台頭しかねないのではないか。

 ロシアも軍事力を背にウクライナのクリミア半島を併合し、各国の強い反発を招いている。

 中国も米ロとは距離を置きつつ軍備増強を図っている。北朝鮮は核・ミサイル開発をなかなか諦めようとしない。

NPTが正念場

 各国のごり押しが目立つ国際情勢の中で今週、2020年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた準備委員会が米国の国連本部で始まった。

 核保有国に、条約が課す核軍縮を迫る場にしなければならない。正念場となる会議には、163カ国・地域の7千を超す都市が加盟する平和首長会議の会長を務める広島市長や、広島県知事も参加している。被爆地代表として核兵器と人類は共存できないと訴えてもらいたい。

 しかし米ロ中とも聞く耳を持たないようだ。許しがたい。そんな姿勢が核兵器廃絶を願う国々の反発を引き起こしてきた。15年のNPT再検討会議の失敗も、核軍縮に消極的な保有国の姿勢が招いた。そのことを忘れてもらっては困る。

 かつて保有国も核兵器廃絶を目指す姿勢は見せていた。しかし、その具体化を求める声に背を向け続けたため、業を煮やした国際社会が踏み切ったのが、2年前の核兵器禁止条約の採択ではなかったのか。

禁止条約道半ば

 核兵器を法的に禁じる条約が122カ国・地域の賛成で採択され、間もなく2年。批准は23カ国・地域に達し、条約発効に必要な50カ国・地域の半分近くにまで迫ってきた。

 安全保障を名目にして国家が軍事力強化を図っても、守るのは民衆ではなく、武器で世界平和も達成し得ない。被爆地は原爆で得た教訓を基に、全人類的な視点でそう訴えてきた。禁止条約はその結晶とも言えよう。

 被爆地の考えに呼応するような動きがトランプ政権の足元でも出てきた。「禁止条約の目標と条項を受け入れる」との決議案が4月に米連邦議会に出された。多数の議員の支持を得るのは困難だとしても、禁止条約の必要性に対する理解が広がっている証しだろう。

 国民の象徴の務めを30年果たした前天皇陛下はきのう「わが国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります」と述べられた。核も争いもなくすことこそ、全世界の平和につながる。その努力を被爆地は続ける必要がある。

(2019年5月1日朝刊掲載)

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