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原爆症 国に初の賠償命令 広島地裁判決「漫然と申請却下」

■記者 野田華奈子

 原爆症の認定申請を却下した国の処分は不当として、広島、呉市などの被爆者23人(4人は死亡、うち2人は遺族が原告)が処分取り消しと1人300万円の損害賠償を求めた集団訴訟の判決が18日、広島地裁であった。野々上友之裁判長は3人について「(認定審査にあたる)分科会の誤った判断に是正措置を取ることなく申請を却下した」などと厚生労働相の注意義務違反を認め、慰謝料など計99万円を支払うよう国に命じた。

 一連の訴訟で国家賠償が認められたのは初めて。国は15連敗となった。分科会の審査に漫然と従った認定行政の責任に切り込む内容で、今後の訴訟や審査の在り方に影響を与えそうだ。

 判決は、賠償を認めた3人の審査で「分科会が要医療性や放射線起因性の解釈を誤った」と指摘。2000年7月、最高裁が長崎原爆松谷訴訟判決で被曝(ひばく)線量推定方式の機械的な適用を批判した点に触れ「厚労相は判決を踏まえ、残留放射線の影響を軽視した不十分な審査について、分科会に再検討を促すなどすべきだったのに、そのまま従って却下した」などとした。

 野々上裁判長は、放射線起因性の立証程度を「発病や進行が放射線によるものだと、通常納得できるくらいに合理的な説明があればよい」とし、23人のうち、新基準で認定されていない5人と一部未認定の2人を合わせた7人を個別判断。新基準で積極認定の対象とならない慢性肝炎など5人の疾病を原爆症と認めて国の却下処分を違法として取り消し、うち3人に賠償を認めた。

 白内障と肺がんを患う2人については症状の経過や生活習慣などを勘案して放射線起因性を認めず、新基準で既に認定された18人の請求は「訴えの利益がない」として、それぞれ退けた。

 訴えによると、被爆者は広島で被爆した91-64歳の男女で入市を含む。2004年3月-2007年6月に却下処分を受けた。日本被団協によると、同訴訟は全国13地裁、8高裁で係争中。広島では2006年8月、地裁が被爆者41人全員を認定した一次訴訟に次ぐ二次訴訟の判決。

(2009年3月19日朝刊掲載)


<解説> 国の姿勢 痛烈批判

■記者 森田裕美

 一連の原爆症認定集団訴訟で初めて国家賠償を命じた18日の広島地裁判決は、認定されるべき被爆者を放置し続ける国の姿勢を痛烈に批判した。司法が求める「被爆者の実態に即した判断」に対し一向に改まらない認定行政を土台から揺さぶる判断と言える。

 原爆症の認定審査には、医師ら専門家で構成する「疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会」が当たる。その判断で重視する被曝(ひばく)線量推定方式は爆発時の初期放射線がベース。放射性降下物や誘導放射線など残留放射線の影響を過小評価しているとして、審査への機械的な適用が批判されてきた。

 国は昨年4月、被爆距離や入市時間、対象疾病など一定条件を満たせば積極認定する新たな審査方針を導入し、救われる被爆者は増えた。しかし審査を分科会に任せる仕組みは今も変わらず、条件から外れるケースの個別判断は不透明だ。国には認定されていない被爆者が司法の場で原爆症と認められており、被爆実態に即した判断ができているとは言いがたい。

 15連敗と敗訴を重ね、ついには賠償責任を負うとされた国は、原爆の惨禍が繰り返されることがないよう総合的な援護施策を講じる義務をうたう被爆者援護法の根本理念に立ち返るべきだ。積極認定の疾病数を増やすなど小手先の基準見直しにとどまるべきではない。援護行政の在り方そのものを改める時期に来ている。

原告側弁護団の佐々木猛也団長の話  15連勝に加え、国家賠償を命じたのは画期的。厚生労働相の職務上の義務違反を認めた点は、国側に陳謝させる道を切り開き、今後の裁判に影響を与えるだろう。

厚生労働省健康局総務課の岡部修課長の話  国の主張が一部認められたものの、一部認められなかったと聞いている。今後の対応は、判決の詳細を確認し、関係省庁と協議して検討したい。

(2009年3月19日朝刊掲載)

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