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勧告案の調整で全会一致難航か NPT準備委前半終了

 米ニューヨークの国連本部で開かれている2020年核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第3回準備委員会は、日程の前半を終えた。討議では各国が声明を述べた後、米国やロシアが「答弁権」で互いを非難する展開が続いている。準備委は6~10日の後半で勧告案を協議するが、全会一致に向けた調整は難航しそうだ。(ニューヨーク発 明知隼二)

 米国とロシアが中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を互いに表明するなど対立を深める中で始まった準備委。米国は初日の4月29日、「ロシアの長年の違反が条約を終わらせた」と述べ、破棄の原因はロシアにあると主張した。ロシアは「不当で根拠のない指摘だ。国際合意を損なっているのは米国だ」と応じた。

 2日には米国が「ロシアは世界のあらゆる問題、シベリアの雪まで米国のせいだと偽っている」と皮肉交じりに非難し、互いに「プロパガンダだ」と責め合う展開になった。

 米国は、昨年5月のイラン核合意からの離脱などを背景にイランとも激しく対立。過去に秘密裏の核開発が発覚した経緯に触れ「信頼性ゼロで他国を批判する立場にない」。1979年の米大使館人質事件を持ち出し「この恐ろしい行いをいまだに謝罪していない」とした。イランは、米国がNPTの核軍縮義務に違反しているとして「米国こそ信頼性ゼロだ」と応じた。

 準備委では3日、サイード議長(マレーシア)が20年再検討会議で議論の下敷きとなる勧告案を配布。後半は中東などの地域問題、原子力の平和利用の討議を経て、勧告案を議論する。

米露の協調姿勢が鍵 長崎大核兵器廃絶研究センター 中村准教授に聞く

 米国とロシアの対立、核兵器禁止条約を巡る意見の違いなどが改めて鮮明となったNPT再検討会議の第3回準備委員会。前半(4月29日~5月3日)を傍聴した長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授に、討議の評価や、今後の見通しを聞いた。

  ―前半をどう見ますか。
 各国ともNPTを取り巻く現状に危機感を表明し、全体として来年の再検討会議を最低限、成功させようとの意思は感じた。(15年再検討会議に続く)2回連続の失敗はNPT体制に深刻なダメージとなる。議長が早い段階で勧告案を示したのも意欲の表れだろう。

 一方、米ロが互いを非難する場面もあった。国内向けのパフォーマンスで珍しいことではないが、今回は外交の場では言い過ぎと感じられる発言もあった。

  ―米国はどのような姿勢なのでしょうか。
 米国が提案する「核軍縮のための環境づくり」に注目している。軍縮には国際的な安全保障環境の改善が必要との考え方で、従来の軍縮の停滞を率直に認めている点は評価できる。しかし、NPTは非保有国が核を持たない代わりに、保有国が軍縮を進める「取引」だ。もし外的な環境を理由に軍縮を進めなければ、過去の約束や合意を無視することになり、NPT体制そのものを壊しかねない。

  ―核兵器禁止条約はどのように扱われていますか。
 反対姿勢を変えない保有国に対し、禁止条約は核軍縮を義務付けるNPT第6条を補うとの主張が目立った。米国が「環境づくり」を打ち出してきたのも、禁止条約を採択する過程で非保有国が握った核軍縮の議論の主導権を、米国が取り戻そうとする動きと見ることもできる。

  ―後半はどのように議論が進むでしょうか。
 勧告案を採択できるかは米国とロシアやイラン、シリアがどう落としどころを見いだせるかにかかっている。少なくとも合意を目指し、協調姿勢を示すことができれば、それは来年に向けた好材料になる。5カ国にだけ核保有を認めるNPTは米国にもメリットが大きく、簡単に投げ出すとは思えない。ただ激しい言葉で敵をつくる姿勢には、多国間主義に背を向けるトランプ政権の手法がにじむ。

  ―準備委での日本の動きはどう見えましたか。
 日本政府は(保有国と非保有国の有識者でつくる)「賢人会議」の成果を紹介したが、率直に言って影が薄い。これまでの枠を超えた積極的な軍縮外交を期待したい。

(2019年5月6日朝刊掲載)

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