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原爆資料館本館 25日再開 記憶継承へ実物中心538点

 原爆資料館(広島市中区)の本館が25日、リニューアルオープンする。原爆の惨禍と核兵器の非人道性を伝えるため、犠牲者の遺品など実物資料を中心にした展示に変える。原爆投下から間もなく74年を迎え、記憶の継承が課題となる中、訪れた人たちの感性に訴え掛ける。(野田華奈子)

 本館の展示は4コーナーで構成。破壊された都市の状況をイメージしてもらう「8月6日の惨状」と「放射線による被害」、遺影と遺品を通して被爆者や遺族の苦しみに向き合う「魂の叫び」、被爆者の戦後の人生に焦点を当てた「生きる」の順番で見学する。実物資料305点(複製6点を含む)をはじめ、市民が描いた「原爆の絵」や写真など計538点の資料を並べる。

 1955年に開館した原爆資料館の大規模リニューアルは3度目。今回は本館で「被爆の実相」を、東館で「核兵器の危険性」や復興や平和活動をたどる「広島の歩み」を学べるよう整理した。有識者による展示検討会議で2010年8月に議論を開始。東館は既に展示改装を終え、先行して17年4月に再開した。

 原爆資料館の18年度の入館者数は152万2453人。16年5月のオバマ前米大統領の来館や17年7月の核兵器禁止条約制定などで世界的な関心を集め、高水準が続く。外国人の数は43万4838人で6年連続最多を更新した。

 資料館は本館オープン前日の24日、準備のため午後2時に閉館する。

原爆資料館
 1955年に本館、94年に東館が開館した。広島市は国重要文化財の本館の耐震化を進め、被爆の惨状や核兵器の非人道性をより分かりやすく伝える施設を目指し、2014年3月に全面改修に着手。東館は同年9月に展示スペースを閉じて改装し、17年4月に再び開館した。入れ替わって本館を閉鎖し、内部改修と耐震化を進めた。耐震化工事は19年度中に終える。総事業費は70億3500万円。

【解説】重い役割 より発信力を

 米国による原爆投下からことしで74年。被爆者健康手帳を持つ被爆者の平均年齢が82歳を超える中、核兵器が人類に及ぼす影響を次世代にどう継承するか。実物資料中心に展示内容を一新した原爆資料館の役割は重く、これまで以上に発信力が求められる。

 爆風や熱線のすさまじさが刻まれた犠牲者の衣服やかばん、折れ曲がった鉄骨の梁(はり)―。収蔵資料の中から選び抜かれた「無言の証人」は約300点。遺族が深い悲しみとともに保管し、平和への願いを込めて資料館に託した形見の品も多い。その一つ一つに尊い人生があった。

 資料館の大規模なリニューアルは3度目だ。有識者による展示内容の検討で実物展示が重視され、かつては被爆直後の人間の姿を人形で再現する展示もあったが撤去された。被爆の実態を来館者にどう感じてもらうか。資料館の歩みはその試行錯誤の歴史でもある。

 オバマ前大統領の来館や核兵器禁止条約の制定などを契機に、海外からの注目度も高い。外国人の18年度の入館者数は43万4838人と6年連続で最多を更新した。リニューアルでは、外国人被爆者のコーナーも新設される。

 惨禍を生き抜いた被爆者たちがいたからこそ、今の広島があることを忘れてはならない。国内外からの来館者が核兵器廃絶と平和への思いをさらに深めることができる空間へ。資料館の新たな模索が始まる。(野田華奈子)

(2019年4月24日朝刊掲載)

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