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原爆資料館リニューアル 入館者アンケート

 原爆資料館(広島市中区)の本館が4月25日にリニューアルオープンし、皇位継承に伴う10連休中(27日~5月6日)は8日間連続で入館者が1万人を超えた。実物資料を中心に、核兵器の非人道性を感性に訴える展示の狙いがどう伝わっているか―。中国新聞は連休中、本館を訪れた計50人に尋ねた。印象的な展示には遺品から犠牲者の人生に迫るコーナーを挙げた人が最も多く、混雑対策や、展示内容の工夫を重ねる努力を求める声もあった。

遺品や遺影 現実の衝撃

実物資料の力

 最も印象に残った展示を選択式で聞いたところ、「魂の叫び」コーナーにある、遺品と遺影、生前のエピソードなどで犠牲者の人生に触れる展示が、最多の15人で3割を占めた。続いて、いずれも「8月6日の惨状」コーナーで、市民が惨状を描いた原爆の絵や大やけどの負傷者の写真(14人)▽被爆した動員学徒の衣服やかばんを複数並べた展示(5人)▽被爆したれんが塀や折れ曲がった鉄骨など大型資料の展示(4人)-が挙げられた。

 相模原市の主婦寺崎悦子さん(43)は「犠牲者や遺族など、その人の立場になって考えさせられる。心に刻まれる」。米国から訪れたジャーナリストのロン・ケイさん(78)は「統計的に死を伝えるのではなく、名前のある個人に焦点を当てて被害をとらえる意味は大きい」と評価。自分や身近な人に重ね、悲しみや無念さを想像した人が目立った。

 原爆の絵と生々しい負傷者の写真を組み合わせて被爆直後の惨状を伝える展示は、強い衝撃を持って「これが現実」と受け止めた人が多かった。神戸市の長谷川博子さん(74)は「核兵器の怖さ、戦争を起こす人間の恐ろしさを感じた。人類が破滅するのではないかという危機感を持った」との印象を抱き、核兵器保有国の人たちにも展示を見てほしいと願う。

 50人のうち、リニューアル前の本館を見学したことがある人は半数近い23人。以前より展示内容が充実し、理解が深まるとする意見が多数を占めた。改装後は以前に比べて館内の照明を暗く抑え、説明文は極力省いてある。来館者に集中して資料に向き合ってもらう工夫の一つだ。

 東京都世田谷区の会社員田中武さん(48)は「視覚効果もあって、以前よりも資料の訴える力が感じられる」と、違いを強調した。「さまざまな角度から見ることができる」と資料配置の工夫を評価する声があった一方、「暗くて説明の文字が読みにくい」との指摘も見られた。

人混み苦言 発信力期待

混雑対策などの課題

 連休中はリニューアル効果もあって入館者が集中。前年同期に比べて62%増の10万5181人が訪れた。29日には最長2時間待ちの行列ができ、入場を制限する事態になった。

 アンケートでは「人混みで息が詰まる感じがした。もう少しゆっくり見たかった」との声が複数上がり、実物資料が多いからこそ、思いを巡らせて考える時間的余裕を求める傾向が浮かんだ。資料館はホームページ(HP)で混雑状況の映像や月ごとの予想などを提供しており、参考にしてもらうよう呼び掛ける。

 資料館の大規模リニューアルは、1955年の開館以来3度目。展示について「ここでしか見られない」「犠牲者それぞれのストーリーをもっと知りたい」など、平和の尊さを伝える資料館の役割に期待感をにじませる声も相次いだ。

 3月の展示検討会議での提言を受け、資料館は今後の運営について専門家の意見を聞く諮問機関を設置する検討を始める。被爆者健康手帳を持つ被爆者の平均年齢が82歳を超える中、資料の収集、保存とともに「何をどのような手法で伝えるか」の試行錯誤を続けなければならない。

 被爆者で元原爆資料館長の原田浩さん(79)=安佐南区=は「リニューアルされた内容をベースに、今後も被爆者の声を含めた幅広い見地から議論を重ね、展示を工夫していくべきだ。ヒロシマが次世代に何を残し、発信するかが問われている」と話している。

(2019年5月10日朝刊掲載)

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