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米新型核実験 計8回に 昨年10~12月 2回実施を公表

 米エネルギー省傘下の国家核安全保障局(NNSA)が、強力なエックス線を発生させる特殊装置「Zマシン」を使って核兵器の性能を調べる新たなタイプの核実験を、昨年10月から12月にかけて2回、ニューメキシコ州のサンディア国立研究所で実施していたことが12日、分かった。2010年からの実施回数は8回となった。(田中美千子、城戸収)

 米国は昨年12月、オバマ政権下で4回目となる臨界前核実験を実施している。ことし2月に核実験を強行した北朝鮮と国際社会の緊張感が高まる中、「核なき世界」を唱えながら核保有を崩さないオバマ政権の姿勢に疑問の声が高まりそうだ。

 NNSAが12日までに、公式ホームページで公表した。実験はZマシンで再現した超高温、超高圧の核爆発に近い状況で、プルトニウムの反応を確認する。核実験場や爆薬は必要としない。

 オバマ政権下の10年11月から始まった実験で、12年8月にも実施。包括的核実験禁止条約(CTBT)の対象外で、NNSAは臨界前核実験とともに、保有核兵器の安全性や有効性を確かめる手段と位置付ける。

 菅義偉官房長官は12日の記者会見で、「実験は貯蔵している核兵器の安全性や有効性を維持、評価するためと承知している。核爆発を伴わず、(日本政府として)抗議は考えていない」と述べた。

米国の核実験
 米国は1945年に世界で初めて実施して以来、地上や地下で核実験を繰り返してきた。92年を最後に一時停止したが、97年から核物質に高性能火薬で衝撃を加える臨界前核実験を実施。核爆発が起きないため包括的核実験禁止条約(CTBT)の対象外、と主張している。

米新型核実験 広島・長崎の研究者に聞く

核軍縮へ抑止力証明/固執の姿勢明らか

 「核なき世界」を掲げながら、なぜオバマ政権は核実験を繰り返すのか―。核問題や国際情勢に詳しい被爆地広島、長崎の研究者に聞いた。

 広島修道大の大島寛教授(64)=アメリカ研究=は「オバマ大統領は核軍縮を確かに進めたいはずだ。それには国民や議会に核抑止力の維持を証明しないといけない」と説明。「そのための核兵器の性能実験。残念ながら、今後も実験は続けるのではないか」とみる。

 長崎大核兵器廃絶研究センターの梅林宏道センター長(75)は「安全保障の柱として核兵器に固執する米国の姿勢が、あらためて明らかになった」と指摘。「核軍縮の流れにマイナスの影響を与えてしまう」と話す。

 さらに梅林氏は「日本は被爆国でありながら米国の『核の傘』に頼る。その姿勢は核保有国の主張を正当化させることにつながっている」とし、「核軍縮を推し進めるためには日本の安保政策を転換させる必要がある」と強調する。(田中美千子)

米新型核実験に怒りと失望 広島市長ら大統領に抗議文

 米国が昨年10~12月にZマシンを使った核実験を繰り返していたことが分かった12日、被爆地広島に怒りが渦巻いた。ことし2月には北朝鮮が核実験を強行したばかり。被爆者たちは「核なき世界」の行方を危ぶむ。広島市の松井一実市長たちはオバマ大統領に抗議文を送った。

 広島県被団協の坪井直理事長(87)は「米国には失望してばかり」と憤る。北朝鮮の反応も念頭に「この時期の発表は当てつけのようで危機感を覚える。けん制するより対話を促すべきだ」と訴えた。

 もう一つの県被団協(金子一士理事長)の吉岡幸雄副理事長(83)は、ノルウェーで今月開かれた「核兵器の非人道性に関する国際会議」に言及。「多くの国が核兵器を廃絶しようとする潮流に水を差す」と批判した。

 北朝鮮が3回目の核実験を強行した2月、日米首脳は「断固として対処」する方針を確認していた。核兵器廃絶をめざすヒロシマの会の森滝春子共同代表(74)は「北朝鮮の制裁を強化しつつ、自国の核兵器の性能を強化する姿勢は説得力がない」と指摘する。

 広島県内の自治体はオバマ大統領やルース駐日米大使に一斉に抗議文を送った。広島市の松井市長は「核兵器を持ち続ける意思を表した」と不快感を示し、湯崎英彦知事は「発表が何カ月も後で透明性に問題がある」と非難した。

 東広島市の蔵田義雄市長は「驚き、落胆する」と嘆き、福山市の羽田皓市長は核兵器廃絶に主導的な役割を果たすよう求めた。呉、竹原、大竹、廿日市市なども抗議文を送った。

(2013年3月13日朝刊掲載)

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