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社説・コラム

天風録 『許されぬ「漏れ」』

 日々生み出され、書店に並ぶ本。どれだけ売れたのか著者でさえ聞かされることはないそうだ。明かさないのが業界のしきたりという。なのに出版社のトップが自ら、ある作家の実売部数を漏らしたのだから騒ぎにもなろう▲「あり得んでしょ」「売れることが正義なのだな」…。多くの小説家から強い反発を受ける。慌てて<書くべきことではなかった>と反省し、ツイートした投稿は削除したが、ひび割れた信頼関係は簡単には戻るまい▲万一漏れたらこちらはもっと深刻だ。放射性物質を閉じ込めるコンクリート製のドームである。米国が核実験を繰り返した太平洋のマーシャル諸島に40年前完成した。おととし現地取材した同僚によると、ひび割れが既に目立っていたという▲漏出が懸念される。近くの島国を訪れた国連のグテレス事務総長が先週、そう警告した。かつて米国は、中身が全て流出しても住民に影響はないとの報告書をまとめていた。うそで隠した真実が、漏れたのではないか▲ドームに覆われた放射性物質には、半減期が2万4千年のプルトニウムも混じる。太平洋を二度と汚染しないための対策は、人類の知恵が問われる。「漏れ」は許されない。

(2019年5月20日朝刊掲載)

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