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社説・コラム

社説 地上イージス「最適」判断 配備反対 地元の声重い 

 地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」の配備先の一つとして、政府は萩市の陸上自衛隊むつみ演習場が「最適」と判断した。28日に防衛副大臣を山口県に派遣して、地元の理解を求める。

 演習場の北側に隣接し、進入路の一部が通る阿武町を中心に、反対する意見が地元では強まっている。政府は、無視してはならない。

 むつみ演習場は昨年6月、秋田市にある陸自新屋演習場とともに候補地として公表された。この2カ所への配備で日本全体をカバーでき、弾道ミサイルによる攻撃を感知して落下の恐れがあれば迎撃するという。

 地上イージスは弾道ミサイルを捕捉する際にレーダーから強力な電波を発する。それが人体や環境にどんな影響があるか住民の多くが不安を感じている。政府は実測調査をして問題ないとした。周囲の水源への影響もなく、「適地」と判断した。

 しかし住民の不安は消えそうにない。「長期間調べないと影響は分からない」「結論ありきの意味のない調査だ」と反発している。もっともだろう。反対を表明している花田憲彦町長も断言する。「国が適地と判断しても私は不適と訴える。配備には住民理解が大前提のはずだ」

 配備に反対する「町民の会」加入者は町内の有権者の過半数に達した。町を挙げて「ノー」を突き付けていると言えよう。

 町は海と山に囲まれた自然を売りに移住を促進する施策に力を注いできた。人口約3300人だが、転入者は毎年100人前後に上る。配備計画はそれに逆行する、との強い危機感が町にはあるに違いない。

 動きは、萩市にも広がっている。反対グループが県全域から2万人を超す署名を集めた。市内では演習場周辺を中心に5千世帯以上が署名したという。

 そもそも地上イージスは必要なのか。なぜむつみ演習場に配備するのか。中期防衛力整備計画や「防衛計画の大綱」にも記載がなかったのに急浮上し、政府の説明も国会での論議も不十分なまま、既成事実だけが積み重ねられようとしている。

 政府が導入計画を明らかにした一昨年の夏に比べ、北朝鮮の「脅威」は薄れている。米国も北朝鮮も、対話路線を続ける構えは崩してはいない。

 地上イージスは、使い方次第で専守防衛の枠を超えるのではないかとも指摘される。技術的には、発射される前のミサイルを狙う方が簡単だが、敵基地への攻撃を容認することにもつながりかねないからだ。  迎撃用の盾だと言っても、矛だと相手は見ているかもしれない。ならばなおさら、真っ先に攻撃目標にされるのではないかとの住民の懸念は拭えない。

 米側の「言い値」や納期を受け入れる対外有償軍事援助(FMS)による調達である点も今後の不安材料になりかねない。

 米国による肝心のレーダー開発が順調に進んでおらず、完成まで時間がかかる見込みだ。政府は、目標としてきた2023年度より運用開始が遅れる可能性があることを今春認めた。その分、費用が膨らみ、日本への負担要請が強まって、泥沼のような状態に陥りそうだ。

 政府は「配備ありき」ではなく、まずは地元の声に真剣に耳を傾けるべきだ。

(2019年5月23日朝刊掲載)

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