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社説・コラム

『記者縦横』 被爆国の役割 見直そう

■報道部 明知隼二

 唯一の戦争被爆国―。日本政府が国際社会で掲げる「金看板」だ。しかし、核兵器廃絶や核軍縮を巡る議論の中で、その看板は確実に色あせつつある。4月下旬から5月上旬に米ニューヨークの国連本部であった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会の取材で実感した。

 準備委では、核兵器を持たない国々が相次ぎ「保有国は核軍縮の義務を果たしていない」と指摘し、その多くが核兵器禁止条約への支持も明言した。軍縮の前進を求める意見を多く盛り込んだ勧告案は、保有国の強硬な反発で採択こそされなかったが、サイード議長(マレーシア)の「議場での議論を反映しただけだ」との説明はうなずけた。

 そんな中、日本政府の姿勢は「保有国寄り」と取られても仕方のないものだった。禁止条約の議論ではあえて反対論の併記を求め、米国などの「核軍縮を進められる国際情勢にない」との主張に同調した。非政府組織(NGO)からは「被爆者の訴えが台無しだ」との嘆きも聞こえた。

 国際情勢を語る言葉が飛び交う中、渡米直前に取材した被爆者の男性を思った。被爆した姉は重いやけどで、筆舌に尽くし難い苦しみの中で亡くなった。残された家族は喪失と後悔を抱えて戦後を生き、その悲しみは今も癒えない。

 核兵器廃絶は複雑な国際政治の課題で、道筋も平たんではないだろう。しかし原爆が奪った一人一人の生、残された者に強いた苦しみを思うならば、異なる振る舞いがあったはずだ。NPTは発効50年の来年、再検討会議を迎える。政府は「被爆国」という言葉の意味と、その果たすべき役割を見つめ直してほしい。

(2019年5月31日朝刊掲載)

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