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社説・コラム

『海外メール』 アルゼンチン 「広島・長崎講座」を展開

 日本の反対側にあるアルゼンチン。飛行機で1日半もかかる遠い場所で、ヒロシマ、ナガサキを語り継ぐだけでなく、被爆者のメッセージに込められた意味を学問的に学び、理解・研究する「広島・長崎講座」が、首都ブエノスアイレスから30キロ西のブエノスアイレス州モロン郡アエド町のラスパンティ教育大で、3月の新学期に始まった。

 この大学は、1972年に創立。キリスト教系の心理教育学と特別支援教育の教職員養成校で、モロン教区神父が理事長を務める。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が勧める「多様性のための教育」にのっとり、世界的な視点からの多角的教育をモットーとする。その中で、国内外、特に同じスペイン語圏のスペインや中南米だけではなく、日本との交流を深めることになった。

 同大では2012年から日本文化祭を実施。今まで首都ブエノスアイレスまで行かなければ触れられなかった日本文化の一面が地域住民に身近になった。15年からは非政府組織(NGO)「フンダシオンサダコ」の協力で、「広島平和セミナー」「平和の折り鶴講座」を学生に加え、地域にも開放。同時に、広島、長崎の両市がイニシアチブを取るNGO平和首長会議への、モロン郡の加盟にも尽力した。

 さらに、17年8月に長崎で平和首長会議の総会が開催された時、日本に祖先を持つ、同大の新里ネリダ学長が出席。世界中の首長やNGOと交流し、それぞれの教育方針に感銘を受けた。新里学長は、帰国後すぐに、キリスト教の精神に合致する平和文化教育を開発したい、と広島・長崎講座のカリキュラム作成に専念。18年末に南米、そしてスペイン語圏では初の「広島・長崎講座」として平和首長会議から認定された。なおこの講座は「人類のための平和教育」という副題が付いている。

 新里学長は「平和という精神の日本文化を振興することにより、学生たちに相互理解する力を育みたい。また、ヒロシマ・ナガサキを事例として、人類の生きる権利と共生を大切にする人間力を高めて、世界市民になってほしい」と述べていた。

 歴史の講師は日系人の小那覇セシリア先生、平和の文化活動で俳句講座のビセンテ・アジャス先生はスペイン人、その他は皆アルゼンチン人である。私は広島出身者として「ヒロシマの声」を伝え、平和首長会議の発足と発展についての講座を5月に2回受け持つ。国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市中区)の証言ビデオや日本映画などを用いる予定だ。

 学生総数は450人だが、その3分の1を占める1、2年生が受講中。さらに、その倍程度が遠距離教室でつながっているので、実は南北4500キロ東西千キロの大きなアルゼンチン国中に学習者は散らばっている。そして1年間授業を受けた最後の課題は、学んだことを教育実習することになっている。その後、進級して、次の1、2年生の教育実習のチューター役を行う予定だ。平和文化教育を受けた教育者として巣立ってくれれば、さらに平和の種がアルゼンチン中でまかれるに違いない。(相川知子=ブエノスアイレス在住)

あいかわ・ともこ
 1967年生まれ、愛知県立大外国語学部スペイン学科卒業後、91年2月に国際協力事業団(現国際協力機構、JICA)海外開発青年としてアルゼンチンへ。日本語・スペイン語教師や通訳、翻訳、日本のテレビ番組などの撮影現地コーディネーターなどをしている。2011年からひろしま平和大使。広島平和文化センターの専門委員も務める。夫と娘2人の4人家族。広島市南区出身。

(2019年5月19日中国新聞セレクト掲載)

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