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社説・コラム

天風録 『キョウチクトウとバラ』

 70年は草木も生えぬとされた被爆地で、その不毛説を真っ先に打ち破ったのがキョウチクトウとされる。この夏も生命力あふれる赤い花があちこちで、強い日差しをはね返す。<夾竹桃(キョウチクトウ)どの橋渡るも爆心地>林たかし▲ほかにヒロシマの花といえば、カンナがある。さらにはバラも。70年前の夏、広島平和記念都市建設法の施行を祝って発行された8円切手には、あでやかなドレス姿の女性が描かれる。1輪のバラを持って座っていた▲本紙は20年ほど前、絵柄をデザインした元郵政省技芸官を探し当てた。高齢のため直接の取材はかなわなかったものの、書面で答えてもらった。「広島の復興を願い、平和を祈る女神をイメージした」と▲切手の女性は「広島ローズ」と呼ばれた。米国憎しの被爆者の間で、進駐軍にこびを売っているようだと悪評を招いたのも、無理からぬ話か。一方で法律は、国からの補助金の積み増しなど復興事業を後押ししていく▲そうして誕生した平和記念公園に今、キョウチクトウが咲く。一角にあるバラの花壇では、各国から贈られた大輪の花が懸命に暑さをこらえながら踏ん張っている。この時季ならではの、復興と平和が織りなす共演―。

(2019年6月7日朝刊掲載)

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