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社説・コラム

天風録 『日本とイラン』

 「ピスタチオをお土産に」。数年前、イランへ出張した際にそう頼まれた。世界一の生産国と初めて知った。本場の物はコクと甘みがさらに強かった▲首都テヘランの大バザールでは、バケツに山盛りで売られている。塩加減がちょうど良く、思わずビールが欲しくなった。厳格なイスラム教シーア派のこの国でお酒はご法度。その場は、ぐっとこらえるしかなかった▲イランにいる安倍晋三首相も口にしただろうか。要人との会談では、険悪になる一方の米国との対話を呼び掛けた。しかし、イラン側は拒んで、原油禁輸などの制裁を続ける米国をとがめた。特段の成果はなく、せっかくの本場の味もほろ苦かったかもしれない▲日本とイランはことし国交樹立90周年を迎えた。トランプ米大統領に仲介役を頼まれたのもそのためだ。だが、制裁に加わり米国に付き従うばかりでは、今後も友として聞く耳を持ってもらえるかどうかは分からない▲成果に乏しかった訪問だが救いもあった。最高指導者ハメネイ師は、核兵器を造らない考えを改めて示した。核開発の疑惑を否定した事実は重い。長年の友として、被爆国として、その姿勢を支えていかなければならない。

(2019年6月14日朝刊掲載)

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