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虐殺の傷 音楽で癒やす ルワンダの歌手マニ・マーティンさんに聞く

被爆者の体験世界に届けたい

 犠牲者が80万人とも100万人ともいうアフリカ中部ルワンダの大虐殺から25年の今年、同国の国民的歌手マニ・マーティンさん(30)が広島市を初訪問し、被爆地の音楽家と共演するなどした。自身の体験や平和への思いを聞いた。(新山京子)

  ―当時はどんな状況下にいましたか。
 5歳だったがすでに母親を病気で亡くして孤児院で暮らしており、内戦で親を殺された子どもに囲まれて幼少期を過ごした。学校のトイレなどの至る所に死体が転がり、異臭がしたのを覚えている。多くの子がトラウマ(心的外傷)を抱えていたが、大人は子どもの心の傷に気づかない。孤独な彼らの心を癒やそうと歌い始めた。

 ―プロの歌手を志したきっかけですね。
 子どもたちの荒れた心が私の歌声を聞くと徐々に落ち着いていく様子を見て、音楽の持つ力を知った。人々が対立を乗り越えることを願いながら教会で歌い、20歳でデビューした。

 ―ヒロシマについて歌った曲があると聞きました。
 5年前、福島市のNPO法人「ルワンダの教育を考える会」の理事長で同郷の永遠瑠(とわり)マリールイズさんを通じて、原爆について学んだ。「決して繰り返さない」と語りかける曲を作り、平和コンサートで披露した。原爆資料館を訪れて犠牲者の遺品と向き合い、これまで以上に心を込めて歌おうと思った。

 ―広島での経験を今後にどう生かしますか。
 原爆犠牲者の遺族や被爆者の悲しみに触れ、争いにより罪のない人たちが亡くなった歴史を忘れてはいけないと感じた。あまりにむごい体験で、語ることができない人が今もいるはず。そんな声なき声を、音楽に乗せて世界に届けたい。

ルワンダ大虐殺
 1994年4月6日、アフリカのルワンダで、多数派フツ人の大統領らが乗った航空機が撃墜されたのを引き金に勃発した。フツ人が少数派ツチ人や穏健派フツ人を虐殺した。ベルギーによる植民地時代からの分断と対立の歴史が背景にある。

(2019年6月17日朝刊掲載)

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