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岩国基地騒音 周辺住民が初の提訴 艦載機移転差し止めも

■記者 広田恭祥

 米海兵隊岩国基地(岩国市)周辺の住民476人が23日、国を相手取り、米軍再編に伴う米空母艦載機移転と米軍機などの早朝・夜間の飛行差し止め、騒音被害に対する総額約5億5000万円の損害賠償などを求める訴えを山口地裁岩国支部に起こした。米軍再編の是非について初の司法判断を求める訴訟となる。

 原告は212世帯のゼロ歳児から93歳の住民たち。いずれもWECPNL(うるささ指数、W値)が75以上の地域に住んでいる。岩国基地関連の騒音訴訟も初となる。

 訴えでは、午後8時から翌朝8時までの飛行とエンジン作動差し止め、それ以外の時間帯は騒音を60デシベル以下に抑制▽市街地上空での旋回・急上昇訓練差し止め▽過去の騒音被害に対し原告1人当たり115万円の損害賠償▽訴訟期間中と将来分として同じく月額2万3000円の損害賠償-を求めている。移転については、艦載機59機と空中給油機12機の離着陸差し止めとの表現で請求に盛り込んだ。

 原告側は、国が進める基地滑走路沖合移設は、騒音軽減などの当初目的に反して2014年までに厚木基地(神奈川県)から移転予定の艦載機部隊の受け皿となり、「基地被害拡大は明らか」と主張。長年の騒音で会話や睡眠妨害、耳鳴りなど身体的被害を受けてきたとしている。

 厚木基地や嘉手納基地(沖縄県)など全国5カ所の騒音訴訟では、W値75以上で過去分の損害賠償がほぼ認められている。飛行差し止めはいずれも退けられている。

 国は、沖合移設により、W値75以上の区域は艦載機が移転しても現在の約1600ヘクタールから約500ヘクタールに減少すると説明する。住民側はこれに反発し、訴訟に向けて2008年11月に準備会、今年3月7日に原告団を結成するなど準備を進めていた。

防衛省の話
 新聞報道は知っているが、訴状を受け取っていないため、コメントは差し控えたい。


米海兵隊岩国基地
 1952年に在日米軍基地となり、1962年に正式に海兵隊基地となった。総面積約574ヘクタール、滑走路延長約2440メートル。米軍はFA18ホーネット戦闘攻撃機やCH53D大型輸送ヘリなど約50機、共同使用する海上自衛隊は約40機を配備する。年間の離着陸回数は、2006年で4万9000回。国が基地東側約213ヘクタールを埋め立て、10年度末までに現滑走路を1キロ沖に移す。完成後の総面積は約1.4倍の約787ヘクタールとなる。

WECPNL(うるささ指数、W値)
 航空機騒音が生活に与える影響を評価する国際基準。飛行回数や時間帯を加味して平均値を求める。昼間に90デシベル(地下鉄車内相当)の騒音で16回飛行すると、W値75となる。うるさく感じやすい夜間の飛行回数は3ー10倍で計算。国はW値75以上の「第1種区域」を防音工事の対象としている。岩国基地周辺の同区域は、大竹市阿多田島を含め約1640ヘクタール。

(2009年3月24日朝刊掲載)


<解説>米軍再編の是非問う 「移転ありき」に不信


■記者 広田恭祥

 米海兵隊岩国基地(岩国市)の周辺住民476人が23日、山口地裁岩国支部に起こした「爆音訴訟」は、米軍再編に伴う空母艦載機部隊移転への反発を背景に、移転差し止めも主眼に置く。国の騒音予測の妥当性や説明責任を含め、再編の是非が初めて司法の場で問われる。

 原告は全員、国が住宅防音工事の対象とする、うるささ指数(W値)七五以上の区域に住む。全国の基地騒音訴訟では、同区域の住民に損害賠償を認める司法判断が定着している。

 今回の訴訟では、損害賠償の請求にとどまらず、艦載機の離着陸差し止めによって日米両政府が合意した移転計画に歯止めをかける構え。ただ、米軍機などの飛行差し止めは全国の訴訟で退けられている。

 「切りひらくしかない」。弁護団長も壁の厚さを認めるが、岩国の問いかけの意味は重い。基地に協力的とされてきた市民が深刻な被害の実態を明かし、「これ以上の爆音はいらない」と明確な意思を国に突き付けた。

 騒音軽減などが目的だったはずの滑走路沖合移設は完了目前に、艦載機部隊の受け皿に変わった。移転ありきの国の姿勢が住民の不信感を増幅させたといえる。  裁判を通じて国は、平穏な生活を願う住民の訴えを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。司法にも根本的な解決の筋道を示してもらいたい。

<うるささ指数(W値)の原告数>
95W  11人( 2.3%)
90W 103人(21.6%)
85W 168人(35.2%)
80W  83人(17.4%)
75W 111人(23.3%) 計   476人
※かっこ内は割合、小数点第2位以下は切り捨てのため100%にはならない

河村官房長官「着実に再編実施」

 岩国基地の周辺住民が騒音被害の賠償などを国に求めた訴訟について、河村建夫官房長官は23日の記者会見で「(艦載機移転を含む)米軍再編は着実に実施していく」と強調した。

 河村長官は訴訟については「訴状を受け取ってから関係省庁で協議する」とした上で、米軍再編の是非が法廷で争われる点に言及。「再編は在日米軍の抑止力を維持しながら地元負担の軽減を図るためだ」と述べ、日米が合意したロードマップ(工程表)の実行が重要との認識を示した。

(2009年3月24日朝刊掲載)

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