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広島大・市立大が施設移転 被爆建物 広島大旧理学部1号館活用へ

2平和研究部門 集積

 広島市が所有する被爆建物である広島大旧理学部1号館(中区)について、広島大と市立大が各平和研究部門を共に移転させる方針を決めたことが25日、分かった。広島大が1995年に東広島市への統合移転を完了してから足踏みを続けていた、旧1号館の保存・活用策が具体化に向けてようやく動きだす。(西本雅実)

 広島大は同日、学長と理事らの役員会を開き、東千田町の平和センターを隣接する本部跡地に立つ1号館に移す方針を了承した。

 越智光夫学長は「被爆地ヒロシマの遺産とも言える1号館の活用は、平和を希求する本学の発展にもつながる」と取材に答え、同大原爆放射線医科学研究所(南区)の所蔵資料から公開可能なものを選び、常設展示する考えも示した。

 市立大(安佐南区)は、松井一実市長の要請を機に、同大平和研究所の移転を学内理事会で既に申し合わせている。4月に設置した大学院平和学研究科(定員10人)も併せて同時期に移す方針も固めている。

 若林真一学長は「国内外からの平和教育研究の拠点となるよう市や広島大と連携を図り、市民向けサテライト・キャンパスの実現にも努めたい」と話した。

 鉄筋3階の旧1号館は、1931年に広島大の前身・文理科大本館として完成。45年8月6日の原爆投下で爆心地から約1・4キロとなり、多数の犠牲者を出したが焼け残った。49年の広島大開学で理学部棟に。欧米各大学からフェニックスなどの寄贈を通じて正門から樹木が茂り今も続く。一帯はヒロシマの歩みを刻む歴史的な場所でもある。

 市は93年に「被爆建物」に登録。2013年に国の無償譲渡(敷地約6300平方メートル、床面積延べ8500平方メートル)を受け、16年からは「保存・活用に関する懇談会」を設け、正面部分をI字形に残す基本方針を翌年に公表。延べ3500平方メートルで改修費は約18億5千万円と見込んだ。

 有識者懇談会は平和教育・研究やコミュニティー・スペースなどの構想案を昨年秋に提示。市は基本計画の策定に向けた約629万円を6月補正予算案に盛り込み、25日の市議会定例会で可決された。

 市都市機能調整部は「床面積が実際にどれだけ要るのかなどの整備案を練り、本年度内には計画をまとめたい」としている。

被爆100年展望を

  「ヒロシマの被爆建造物は語る」(原爆資料館発行)の編さんに当たった、石丸紀興・元広島大教授の話
 旧理学部1号館の劣化防止は喫緊の課題であり、市が率先して歴史的建物活用の道を切り開く意欲がほしい。今年8月に施行70年となる広島平和記念都市建設法を生かして国の財政的な支援を引き出し、ヒロシマの意味を世界に対してさらに発する。被爆100年を展望する施設や機能が求められる。

(2019年6月26日朝刊掲載)

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