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「価値観や魂 揺さぶりたい」 映画「誰がために憲法はある」井上監督

 「改憲問題」と「原爆朗読劇」を2本柱にした異色のドキュメンタリー映画「誰がために憲法はある」が東京でロングランヒットとなり、全国に公開が広がっている。広島市を訪れた井上淳一監督は「社会派の映画が届くのは関心のある人だけになりがち。『届かない』人の価値観や魂を揺さぶる作品にしたかった」と思いを語った。

 冒頭は、日本国憲法を擬人化した「憲法くん」に扮(ふん)した名優、渡辺美佐子による一人芝居。優しくりんとした口調で憲法前文を朗読し、「うわさを耳にしたのですが、私がリストラされるかもしれない」と改憲への危機感をにじませる。

 次にカメラは、渡辺たちベテラン女性俳優による「夏の会」が各地で開く原爆朗読劇を追いかける。昨年7月の広島公演や、渡辺が広島の原爆で亡くなった「初恋の人」の足跡を訪ねるシーンも登場する。

 「改憲が進められようとしている現状に対して、『映画は何もしなくていいのか』という思いがあった」と井上監督。そんな時、お笑い芸人の松元ヒロがユーモラスに演じる「憲法くん」と出会い、映画化を決意したという。戦争を経験したベテラン俳優に演じてもらいたいと渡辺に出演を依頼。当時85歳だった渡辺は憲法前文を含む膨大なせりふを3カ月かけて覚え、撮影に挑んだ。

 今年「夏の会」は約30年の活動に幕を下ろす。映画には夏の会のメンバーと交流する中学生の姿を盛り込む予定だったが、学校の許可が得られずカットした。井上監督は「憲法の問題について語ることを過剰に恐れる風潮が残念。ぜひ、子どもや孫と一緒に見て語り合ってほしい」と話していた。(西村文)

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 広島市西区の横川シネマで7月1日から、岡山市北区のシネマ・クレールで5日から公開。

(2019年6月29日朝刊掲載)

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