戦争体験者による原爆朗読劇 来月幕 中心メンバー 渡辺美佐子さんに聞く
19年7月1日
国が吹かせる風 善悪を見極めて
先の大戦を肌身で知る俳優たちにより1985年から全国で催されている被爆手記の朗読劇が、8月に幕を下ろす。今月1日からの「夏の雲は忘れない」の広島公演を前に、中心メンバーの渡辺美佐子さん(86)に朗読に込めてきた願いを聞いた。(田中美千子)
―惜しまれながらの幕引きですね。
私たちも年をとりました。演劇集団「地人会」の下、公演を始めた頃はみんな40、50代でした。地人会が12年前に解散すると、翌年に女優たちで「夏の会」を立ち上げました。営業も雑用もこなしましたが、もう限界。当初18人いた仲間は亡くなったり、施設に入ったり。今では11人です。
―朗読劇はどのような筋立てですか。
現在演じている「夏の雲は忘れない」は、私たち自身で台本を編みました。原爆で亡くなった子どもの最期の言葉、子を奪われた親の手記などを朗読し、舞台には犠牲になった子どもたちの遺影も映し出します。
―俳優仲間はみなさん、戦争体験者と聞きます。
ええ。太平洋戦争が始まった時、東京の麻布で暮らしていた私は国民学校3年生でした。ひもじさに苦しみ、空襲警報でたたき起こされ、爆弾や焼夷(しょうい)弾におびえました。
―なぜ、原爆を朗読の題材に選んだのですか。
国民学校で同級生だった男の子が突然、学校に来なくなりました。彼のことがずっと心に残っていて、戦後35年にテレビ番組で捜してもらいました。現れたのは彼のご両親。広島に疎開して広島二中(現観音高)に進んだ彼は建物疎開作業中に被爆し、遺体も見つからなかったそうです。
ショックでした。子どもたちが何も分からないまま無慈悲に消されてしまうなんて。人間らしい生活ができるのは平和だからこそ。そこを分かってほしくて活動してきました。
―朗読劇に込めたメッセージとは何ですか。
人間って、本当に「風」に弱い。「戦争万歳」から「民主主義万歳」に一転した戦後の世の中にころっと順応する。私自身もそうでした。国が吹かせる風によほど気を付けていないと巻き込まれます。国内外の動きをよく見聞きし、善しあしを見極めてほしいです。
私は出演しませんが、広島、三次市で6公演に臨みます。8月24日の埼玉県深谷市での公演が、私自身とグループの千秋楽です。個人の活動としては、今後も広く朗読を続けたいです。
広島公演は広島、三次両市の計6回。5日の三次公演のみ、チケット販売中。三次市民ホールで午後2時開演。一般2千円、学生千円。同ホール☎0824(62)2222(3日は休館)。
(2019年7月1日朝刊掲載)