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広島本大賞に西島さん 原発誘致をテーマに寓話

 広島県内の書店員たちが全国に届けたい地元ゆかりの本を選ぶ第3回広島本大賞に、漫画家西島大介さん(38)=広島市西区=の「すべてがちょっとずつ優しい世界」(講談社)が20日決まった。今回は漫画が対象で候補9作品の中から選んだ。

 東日本大震災後、高校時代を過ごした広島に東京から家族で移り住んだ西島さん。原子力発電所の誘致をめぐる中央と地方の関係を寓話(ぐうわ)として描いた。実行委員会は「原発の問題と誠実に向き合い、広島から福島へのメッセージとして意義が大きい」と評価する。

 中国新聞読書面の連載「放課後の図書室」にもイラストを提供した西島さんは「広島からゆっくり作品を届けていきたい」と喜ぶ。

 初めて設けた特別賞には、松田洋子(ひろこ)さん(48)=東京都東村山市=の「ママゴト」(エンターブレイン)を選んだ。孤独な女性と少年が心を通わせる疑似家族の物語。高校卒業まで福山市で育った松田さんは「作り話でも感情だけは本物にしたくて広島弁で描いた」と話す。

 5月に授賞式を予定する。(渡辺敬子)

この人 第3回広島本大賞を受賞した漫画家 西島大介さん

無力さと悲しみを表現

 「無力さと悲しみ。途方に暮れていた当時の気持ちをありのまま描いた」。2011年9月から月刊誌で1年余り連載し単行本化した「すべてがちょっとずつ優しい世界」(講談社)。広島県内の書店員が選ぶ第3回広島本大賞を受賞した。

 静かな闇が広がる小さな村が舞台だ。鉱山がさびれ、大水に流された村を救うため、街の人が勧める「ひかりの木」を誘致する。村はにぎわうが、やがて木は崩れ、専門家の手にも負えなくなる。村を去る者、残る者…。

 主義主張を押し付け合うのではなく、多様な価値観を認め合える社会に希望を託した。

 東日本大震災直後の4月、妻と2児を連れて東京から実家のある広島市へ。「世の中は思っていた以上に適当で、狂っている。今いる場所から現実を理解しようと試みた」。被爆地から原発事故で放射能にさらされた福島へ思いを寄せる。

 「凹村戦争」で04年デビュー。ベトナム戦争が舞台の「ディエン・ビエン・フー」をはじめ、極限状態の人間をシニカルに描いてきた。躍動的な画風は震災後、一転。「こんなに心地よく穏やかな気持ちで描けたのは初めて。ずっと描き続けたい世界が生まれた」

 生活も一変した。いったんペンをおくと、子育てを楽しみ、小さな映画館を手伝う。ピアノでの作曲も癒やされるひとときだ。

 4月、作品をモチーフにした美術展を都内で開く。「心の持ち方で見える景色も変わる。ささやかでも、そんな提案をしたい」(渡辺敬子)

(2013年3月21日朝刊掲載)

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