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「原爆の図」巡る表現問う ビナードさん紙芝居 制作過程から 埼玉の丸木美術館で展覧会

 埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館で「紙芝居ができた!」展が開かれている。同館所蔵の「原爆の図」を題材に、詩人アーサー・ビナードさんが完成させた紙芝居「ちっちゃい こえ」の制作過程を紹介する展覧会。「原爆の図」を巡る表現の可能性を伝える。

 「原爆の図」は広島市出身の丸木位里と妻の俊が共同で描いた連作。本展の冒頭には敗戦後間もない頃の位里の複雑な心情を表す自画像や俊の実験的な作品が並ぶ。また夫妻に被爆の惨状を繰り返し語った位里の母スマの筆による原爆の絵も。一見紙芝居とは関係なさそうだが、「原爆の図」に丸木夫妻がたどり着くまでの、いわば「メーキング」でもある。

 そうして生まれた「原爆の図」を現代に生きる詩人はどう受け止め、どう表現しようとしたのか。続いてビナードさんが紙芝居にするため「原爆の図」から切り取った千枚近くの場面が会場の壁を埋める。刊行に至らなかった3パターンの試作品も紹介し、試行錯誤の跡を伝える。

 7年を経て5月に童心社から刊行された紙芝居は「サイボウ」の視点から核の非人道性を告発する物語だ。展覧会の最後はその16場面を拡大展示した空間が広がる。見ていると、館内に常設されているオリジナルの「原爆の図」と向き合いたくなる。

 被爆から74年。体験のない世代がいかに記憶を継承するかは大きな課題だ。同館の岡村幸宣学芸員は「記憶の風化と言われるが、過去を過去に閉じ込めるのではなく、生きた表現としていかに実感し、よみがえらせるかが私たちに問われている」と話す。紙芝居はその一例であり、メーキングを見せることもまた、一つの表現であることを静かに訴える展覧会だ。

 9月1日まで。8月5、12日を除く月曜休館。(森田裕美)

(2019年7月26日朝刊掲載)

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