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旧防空作戦室 耐震化先送り 「広島壊滅」第一報伝えた平和学習の場

広島城の一角 市、一部破壊懸念

 広島市が、米国の原爆投下直後に「広島壊滅」の第一報を伝えた被爆建物の中国軍管区司令部跡(旧防空作戦室、中区)で予定していた耐震調査と工事を見合わせていたことが26日、分かった。調査そのものが建物を一部壊すことになる点を考慮した。内部見学に多くの人が訪れていたが、現在は老朽化で中止している。当初目指した耐震化工事や、見学の再開のめどは立っていない。(水川恭輔)

 防空作戦室は半地下構造で国史跡の広島城跡にあり、市が管理している。爆心地の北東790メートル。市は申請に応じて内部を公開してきたが、天井や壁のコンクリートが剝離するなど安全性が確保できなくなったため、耐震化を講じるとして2017年4月24日から中止している。

 市緑政課によると、耐震調査を踏まえて、18年度に耐震工事の着手を予定していた。しかし、建築関係の部署と協議した結果、調査では壁に穴を開けることや鉄筋の一部切断などが必要となり、作戦室の一部破壊になると判明。老朽化が著しいだけに、調査自体を当面は見合わせることを決めたという。

 同課によると、専門家から防空作戦室の周りに未知の部屋が埋もれている可能性も指摘されており、調査や工事が与える影響を考慮する必要があるという。

 久波一行課長は「一部破壊になることに加え、保存には多額の税金を投入することになる。観光や平和学習などさまざまな観点から慎重に対応を検討する必要がある」と説明。市として、一部破壊してでも調査と耐震化を進めるべきかどうかなど、今後の方向性を決める必要があるとする。

 防空作戦室の内部は見学中止前、電話で福山の部隊に広島壊滅の第一報を発した被爆者の岡ヨシエさん(17年に86歳で死去)の体験証言会が開かれるなど、平和学習の場になってきた。16年度は、修学旅行生たち9610人が見学した。

 市は外からの見学に限る現在も、平和をテーマにした観光周遊「ピースツーリズム」の場の一つとして観光客たちに紹介している。市のピースツーリズム推進懇談会座長を務める被爆者の原田浩・元原爆資料館長(80)は「今後、老朽化はますます深刻になる。被爆75年に向け、保存と公開に向けた調査などの一歩に踏み出すことが急務だ」と指摘している。

(2019年7月27日朝刊掲載)

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