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社説・コラム

天風録 『核抑止論は賞味期限切れ?』

 いったい核抑止論とは誰が名付けたのだろう。大国の為政者や独裁者がよく信奉するのは、核兵器を持てば安心できると勘違いしているからか。被爆地からすれば、まともな理論と呼べるはずもない▲きのう本紙1面が伝えた通り、米軍が本気で小型核兵器の実戦使用を検討し始めたようだ。広島に投下された原爆の約3分の1の威力なら使っていいという不気味な発想は、ひょっとして、米軍自身も核抑止論の賞味期限切れに気付いたためなのか▲核兵器を持てば報復を恐れて誰も攻撃してこないし、ひいては戦争を防ぐという理屈。だが、第2次大戦後に核戦争がなかったのは核の威力のせいというより、人類が原爆の惨禍を目の当たりにしたためではないか▲どんな理由であれ、核兵器は使ってはならぬ「絶対悪」であり、そうした認識が「広島、長崎の次」を防いできた。もちろん想像力を素直に働かせるなら、14万人の犠牲者が3分の1に減るから使えるなんて道理がどこにもないことは、すぐ分かる▲もはや米軍は、核保有の理屈が通らなくてもお構いなしで、むしろ使用を正当化したいのだろう。人類の未来を奪う暴走を食い止めるには、そう、廃絶しかない。

(2019年7月30日朝刊掲載)

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