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原爆資料館の「対話ノート」 翻訳してみたら…

「広島に共感」「核削減を」

 「原爆資料館を訪れて『対話ノート』を開いたら、英語以外のメッセージもいろいろあった。なんて書いてあるのか知りたい」。広島市南区の会社員男性(36)が編集局に声を寄せた。原爆資料館(中区)を見学した人が感想をつづる「対話ノート」。メッセージのうち、学芸員たちも読めない5言語を外国人市民たちの協力を得て解読した。(山下美波)

 7月下旬に取材で資料館を訪れ、計13冊を開いてみた。本館が展示を替えて再オープンした4月25日から7月3日までに書かれたもの。英語と日本語以外の言語がほぼどのページにも記されていた。

 まず翻訳を頼んだのはイスラエルの公用語であるヘブライ語。埼玉県の家具作家ダニー・ネフセタイさん(62)によると、イスラエルからの来館者はナチス・ドイツがユダヤ人たちを組織的に虐殺したホロコーストを重ね合わせた。「大悲劇を経験した民族の一人として、広島の悲劇も共感できる」「私の家族も含め、ユダヤ人も家族全員が殺された事実があるのでとても共感できた」と。

復興を評価

 ベトナム語は、NPO法人広島ベトナム協会(西区)のカオ・ホン・ゴックさん(35)に頼んだ。「私たちの国も日本と同じ戦争の痛みを経験しました」とベトナム戦争を思い起こした記述。さらに日本の戦後の復興を「回復力がある」と評した感想もあった。

 「広島で起きたことに正当性の余地はない。核兵器製造についてよく示したもの。その削減と不使用を訴えている」。サウジアラビアからの来館者はアラビア語で書いた。訳した広島市立大の田浪亜央江准教授(48)はイラクでの劣化ウラン弾の被害などを挙げ「アラビア語圏でも核汚染が進んでいる地域がある。イスラエルは事実上の核兵器保有国であり、核兵器への認識は敏感だ」と見立てた。

 そして平和を求める声は世界共通だった。群馬県伊勢崎市の会社員江藤ステファニーさん(23)が訳したポルトガル語は「戦争はもういらない」。東京都葛飾区の大学生田村大樹さん(23)が訳したスペイン語は「神様が私たち人類に世界の平和を維持するための知性と愛をくださりますように」とつづった。資料館で核兵器の非人道性を感じれば、当然に行き着く答えなんだとあらためて思う。

活用に意欲

 対話ノートは現在、東館1階と本館ギャラリーに2冊ずつある。開館15年後の1970年に始め、1日時点で1548冊に上る。学芸課の職員が読んだ後、永久に保存する。ただ、訳せるのは英語、韓国・朝鮮語、フランス語、ロシア語だけ。同課の加藤秀一課長は「職員も感想が気になり、知人にスペイン語やヘブライ語の翻訳を無償で依頼したことがある。毎回は時間もお金もかかるので難しいが、来館者の受け止めを知る方法として今後も対話ノートを活用したい」と話す。

 取材では、ベンガル語で書かれた長文のメッセージや、何語か判別できないメッセージも多くあった。外国人観光客は増えている。少しでも活用される環境を整えられないだろうか。

(2019年8月2日朝刊掲載)

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