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被爆樹木 強い生命力 廿日市で美術展 100点並ぶ

 「被爆樹木 もの言わぬ物たちの記憶」展が、廿日市市のはつかいち美術ギャラリーで開かれている。74年前の惨禍を体験し、今なお生き続ける無言の証人「被爆樹木」に美術作家6人がそれぞれ向き合い、表現した約100点が並ぶ。

 地元作家では久保田辰男が、被爆に耐えた大木を細やかに捉えた水彩スケッチなどを出展。三桝正典は、頼山陽史跡資料館(広島市中区)のクロガネモチをふすま絵にしている。原爆による爪痕を残しながらも生命力にあふれる幹や枝葉を、墨とアクリル絵の具を用いて半抽象的に表現している。

 とりわけ目を引くのは入野忠芳(1939~2013年)が晩年に描いた墨彩画41点だ。没後に同ギャラリーが寄贈を受け、全点公開は初めてという。「裁判所北辺の楠」はしっかりと根を張り、枝葉を茂らせるクスノキ。力強く丹念な筆触からは命への畏敬の念が伝わってくる。いずれも背景が描かれておらず木そのものの存在感に迫る「肖像画」のようだ。

 被爆樹木の「声」を受け止め、作品で代弁するのは地元作家だけではない。被爆した石や樹木などに紙を置き、表面の凹凸を擦り取って刻まれた記憶を可視化してきたのは、北海道を拠点に活動する岡部昌生だ。広島や福島第1原発事故の被災地で取り組んだフロッタージュ作品が壁面を埋め、現代と地続きにあるヒバクの歴史を痛感させる。

 写真表現も多様だ。モノクロで被爆の痕跡を捉える木村早苗(東京都)に対し、浅見俊哉(埼玉県)はカメラを使わず、感光紙で影を写し取るフォトグラムという技法を用いる。被爆樹木の枝葉が幻想的に浮かび上がり、想像力を促す。

 いずれの表現も、過去の記憶を伝えつつそれに屈しない生命への希望をたたえている。作品群は、それを次代へつなごうとの作家たちの意思表示にも見えた。  12日まで(5日は休館)。無料。=敬称略(森田裕美)

(2019年8月2日朝刊掲載)

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