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社説・コラム

著者に聞く 『平和の栖(すみか)』 弓狩匡純さん

広島の復興に託された思い

 原爆による焼け野原からの復興を財政面で支え、街の新たなアイデンティティーも決定付けた広島平和記念都市建設法の施行から8月6日で70年になる。法成立までの4年間を丹念に追い、広島の「原点」に迫る節目にふさわしい本と言えそうだ。

 広島の人にさえ不可能だと思われていた法律だった。「全国に200を超す戦災都市があるのに国にはお金がない。広島を特別扱いする理由も余裕もなかった」からだ。では、どうやって政府や連合国軍総司令部(GHQ)を説得したのか。

 難事業に挑み実現させた広島の先人たち。思いや言動を細かく拾い上げ疑問に答えている。

 「歴史としてではなく、血の通った人間ドラマとして描きたかった」と話す。狙い通り、強烈なキャラクターの人が多く出てきて引き込まれる。「原爆市長」として知られた当時の市長浜井信三氏、市議会議長として支えた任都栗司(にとぐり・つかさ)氏、広島を「恒久の平和を誠実に実現しようとする理想の象徴」と位置付ける法案を書いた広島市出身の参議院議事部長、寺光忠氏…。

 さらに、本書は米国育ちで広島県選出の衆院議員だった松本滝蔵氏に光を当てている。戦前にハーバード大を卒業して得た人脈を生かし、熱心にGHQに働き掛けた。「高官ともファーストネームで呼び合う関係がGHQの理解を得るのに貢献、国会を動かす力にもなった」

 500ページ近い分量も苦にならない。444もの注釈の中には、本文で出てくる人物のエピソードが含まれ、2度楽しめる。

 オバマ米大統領の広島訪問や憲法改正を巡る国内の動きも取り上げている。「この法律の崇高な理念を再認識すべきだ」。著者の思いが伝わってくる。

 被爆地の願いの結晶とも言える核兵器禁止条約に背を向ける米国と追随する日本政府。広島がどう向き合うか、困難に打ち勝った先人のような志や覚悟を再び示せるか―。宿題が突き付けられたようだ。(宮崎智三)(集英社クリエイティブ・2700円)

  ゆがり・まさずみ
 1959年兵庫県生まれ。米テンプル大卒。国内外で幅広い分野を取材・執筆。「平和のバトン」など著書多数。

(2019年8月4日朝刊掲載)

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