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8・6追体験 苦悩の筆 基町高「原爆の絵」新たに11点

 基町高(広島市中区)の生徒が描く「原爆の絵」がこの夏、新たに11点完成した。高校生たちが、被爆者とともに当時の記憶をたどり、惨状を克明に絵にした。被爆者のまぶたに焼き付いた光景と、壮絶な体験、今なお続く苦しみを丹念にくみ取るという困難な作業を通して、「平和」の意味を問い直している。

 アシの茂みに横たわる無数の遺体。大やけどを負って倒れこんだ人たち―。原爆が落とされた直後、川崎宏明さん=「記憶を受け継ぐ」で紹介=が目の当たりにした光景を創造表現コース3年の小野美晴さん(18)=福山市=が描いた。

 2人が初対面したのは昨年10月。学校で面談を重ねた。「小学校で被爆証言を聞いたことがあるくらい」だった小野さんを見かねて、川崎さんは原爆被害に関する資料を見せたり、「あの日」の自らの足跡を一緒にたどったりした。

 当初、制作は順調に進んでいた。だがある時、小野さんは担当の美術講師に「見る者には何も伝わってこない」と指摘され、筆が止まった。証言を基に「あの日」に近づこうとするたび苦悩した。「考えるほど、74年前の8月6日が遠く感じた」という。

 ふと思い立ち、絵の中で描く人たちに自身の家族や友人を重ねてみた。「原爆の犠牲者にも、大切な人たちがいたはず…」。一人一人のストーリーを考えた。背中を真っ赤に焼かれ、白いハンカチを握ったままうつぶせになった女性は「再び好きな人と会えない悲しみを抱いて亡くなった人」だと考えた。「あの日」の川崎さんの体験に、「今」の自分の思いを投影しながら、再び筆を進めた。

 同校の「次世代と描く原爆の絵」プロジェクトは、原爆資料館(同)から依頼を受け、2007年度に始まった。被爆者37人の証言を基にした137点が完成し、参加した生徒数は118人に上る。絵は、同資料館に寄贈され、被爆証言の際に活用されている。被爆者の肉声を聞くことができなくなった将来も、時を超えて証言者の願いを伝え続けるだろう。

 今年の11点を含む37点が、広島国際会議場(同)で7日から21日まで展示される。小野さんは、川崎さんの平和への思いと「原爆の絵」に込めたメッセージを伝えるつもりだ。「被爆者の苦しみや犠牲者を悼む気持ちは、1枚の絵だけでは表現しきれない」と痛感しながらも、「絵をきっかけに、この光景を二度と繰り返さないという決意を多くの人と共有したい」と願う。(新山京子)

(2019年8月5日朝刊掲載)

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