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緊迫の世界へ平和訴え 広島 あす原爆の日

 核兵器なき世界を願う被爆地広島の訴えをどう国内外に届けるか、正念場である。米国とロシアの中距離核戦力(INF)廃棄条約が2日に失効した。被爆74年もなお、核を巡る国際的な緊張は高まる。高齢化が進む被爆者の廃絶への切なる願いを実現するため、英知を結集する時だ。巡り来る6日の原爆の日。奪われた一人一人の命に思いをはせ、ともに世界の平和構築を考える日にしたい。

 1988年に発効したINF廃棄条約は二大核保有国である米国と旧ソ連の軍拡競争に歯止めをかけ、冷戦終結を後押しした。失効により国際的な軍縮の機運が後退するのは必至だ。米国は2月、トランプ政権下で2回目の臨界前核実験を行ってもいる。不穏な世界情勢だからこそ、各国の政治指導者は被爆地を訪れ、核兵器がもたらす惨禍に目を向けなければなるまい。

 2017年に核兵器禁止条約が国連で採択され、廃絶へのうねりは国境を越えて市民社会に広がった。だがしかし、米国の「核の傘」の下にある日本政府は依然、背を向けたままだ。被爆者団体は、6日の平和宣言で日本政府などに条約の署名・批准を明確に求めるよう、初めて松井一実市長に要請。宣言では「被爆者の思い」として日本政府に踏み込んだ形で訴える。世界に呼び掛けるこの宣言が、どれだけ人々の心に響くのか、見届けたい。

 ヒロシマ発信の好機には恵まれている。原爆資料館本館の展示は4月、実物資料を中心に被爆の実態を感性に訴え掛ける構成へと一新された。18年度の外国人入館者数は43万人を超え、6年連続で最多に。11月にはローマ法王フランシスコが広島と長崎を訪問予定で、被爆地からの平和のメッセージの世界的影響力に期待が高まる。

 被爆75年の節目となる20年には、5年に1度核軍縮の方策を探る核拡散防止条約(NPT)再検討会議がある。被爆地の訴えをより確実に届け、核兵器なき世界を人類共通の理想としたい。核兵器に頼らない安全保障を巡る議論をさらに深めたい。

 被爆者健康手帳を持つ被爆者は3月末時点で14万5844人。初めて15万人を下回った。記憶を次世代へとつなぎ、理想へと歩を進める。それが今を生きる私たちの使命である。(野田華奈子)

(2019年8月5日朝刊掲載)

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