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救護被爆 7人とも認定 広島地裁初の判決 

■記者 野田華奈子

 被爆者の救護、看護などのため救護所に滞在した広島市の7人が「三号被爆者」の被爆者健康手帳交付申請を却下した広島市の処分は違法として、処分の取り消しと1人220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、広島地裁であった。野々上友之裁判長は「原爆投下から約2週間の間に、被爆者が多数いた環境に相応の時間とどまり、放射線の影響を受けたことを否定できない」として7人全員を被爆者と認め、市の処分を取り消した。損害賠償請求は棄却した。

 三号被爆者をめぐる訴訟では初判断。内部被曝(ひばく)の危険性を前提に、被爆者援護法の制定趣旨から被爆者と認める範囲を拡大するもので、被爆者援護行政に影響を与えるとみられる。

 野々上裁判長は被爆者の健康管理を重視した援護法の趣旨から三号被爆者の該当要件は「最新の科学的知見を考慮し、身体に放射線の影響を受けたことを否定できない事情があるか否かという観点から判断されるべきだ」との解釈を示した。その上で原告を個別判断し「却下処分は違法」とした。

 「1日に10人以上」の被爆者を救護、看護したことを要件とする市の審査基準について「合理的な根拠があるかどうか十分に精査せず数値的な指標を導入した」と批判。しかし過去に当時の厚生省が人数要件に沿った運用を各自治体に要望していることから、基準の策定や審査の注意義務違反は認めなかった。

 原告7人は78-65歳の男女。原爆投下後、多数の被爆者が収容された当時の佐伯、安芸、安佐郡などの寺や国民学校で、被爆者の看護を手伝ったり、親に背負われたりした。市は2002年8月-2005年1月、審査基準を満たすだけの事実を確認できないとして申請を却下した。

(2009年3月26日朝刊掲載)


<解説>広島市の審査基準を否定

■記者 野田華奈子

 三号被爆者の手帳交付申請を広島市に却下された7人全員を被爆者と認めた25日の広島地裁判決は内部被曝(ひばく)の影響を考慮し、被爆者の範囲そのものを広げた画期的な内容といえる。三号被爆者に当たるかどうかの判断で救護人数にこだわった同市の基準を否定し、環境や滞在時間を重視する解釈を採った。

 放射線の人体への影響は原爆投下から60年以上が経過しても未解明な部分が多い。判決はこの事実を踏まえ被爆者援護法の趣旨が被爆者の将来の障害への不安を取り除くことにあるととらえた。法の趣旨と最新の科学的知見に照らし、直接被爆や入市被爆以外の人にも広く手帳を交付して援護対象に含めるべきだと示唆した。

 広島市によると、2007年度の三号被爆者の市への手帳交付申請は63件。2003-2007年度の平均認定数は年約34件で却下件数は同約36件。市の「10人基準」のために手帳取得のハードルは高かった。

 市の審査基準の不合理は明らかで見直しは急務だ。人数要件を他の自治体に促した厚生労働省の責任もある。援護法の趣旨に立ち返って被爆者援護行政を改めるべきだ。核廃絶を掲げる国として被害にどう向き合ってきたのか、その姿勢も根本から問われる。

三号被爆者
 被爆者援護法第1条3号に定める被爆者。「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」を指し、直接被爆(一号)や投下後2週間以内に広島、長崎に入市(二号)、胎内で被爆(四号)の人とともに、被爆者健康手帳の交付対象。被爆者の救護や搬送のほか、放射性降下物「黒い雨」を浴びたケースがある。手帳交付審査は各都道府県と広島、長崎両市で実施され、広島市は「1日10人以上の被爆者に直接接触して救護・看護活動に従事したもの」と定義。2008年3月末で全国に約2万5000人と、被爆者全体の1割を占める。

(2009年3月26日朝刊掲載)


控訴しない方向で検討 救護被爆で広島市

■記者 明知 隼二

 広島市の秋葉忠利市長は26日の記者会見で、「三号被爆者」としての被爆者健康手帳交付申請に対する市の却下処分を違法とした、25日の広島地裁判決を受け「控訴しない方向で検討したい」との考えを示した。

 判決は、救護所などに滞在した市内の原告7人全員を被爆者と認めた。会見後、市原爆被害対策部の国本善平部長は「市としては被爆者の立場に立って控訴しない方向で、国とこれから協議する」と説明した。

(2009年3月27日朝刊掲載)

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