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核禁条約 批准求める 被爆74年 広島平和宣言に「被爆者の思い」

首相は不参加姿勢

 米国による原爆投下から74年。被爆地広島は6日、「原爆の日」を迎え、広島市は平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。松井一実市長は平和宣言で、世界情勢を踏まえて「核兵器廃絶への動きが停滞している」と指摘。核兵器禁止条約に背を向ける日本政府に対し「被爆者の思い」として署名・批准を求めた。安倍晋三首相は式典後の会見で、あらためて条約に参加しない姿勢を示した。(野田華奈子)

 冷戦後の核軍縮の支柱となった米国とロシアの中距離核戦力(INF)廃棄条約は、2日に失効した。松井市長は宣言で、軍拡競争が激化しつつも対話を続けた1980年代の条約調印当時を思い起こすよう促し、「人類の存続に向け、理想の世界を目指す必要がある」と投げ掛けた。

 あの日の惨状を詠んだ被爆者の短歌を初めて引用。平和で持続可能な世界に向けて立場や主張が違っても共に努力するべきだとし、インドの独立に貢献したガンジーが言及した「寛容」の心の大切さも説いた。

 政治指導者に対しては、ことし4月に展示内容を一新した原爆資料館本館(中区)などで犠牲者や遺族の人生に向き合うよう呼び掛け、核軍縮への取り組みや市民社会が願う核兵器禁止条約の発効を訴えた。日本政府には「条約への署名・批准を求める被爆者の思いをしっかりと受け止めていただきたい」と、従来より踏み込んだ形で要請した。

 安倍首相は会見で「条約が目指す核廃絶というゴールは、わが国も共有している」としたものの、「条約は現実の安全保障の観点を踏まえることなく作成され、核兵器保有国が参加していない」と不参加の理由を述べた。

 令和最初となる式典は、台風8号の影響で2014年以来の雨に見舞われる中、約5万人が参列した。海外代表は米国やロシアなど核兵器保有の6カ国を含む海外89カ国と欧州連合(EU)、都道府県の遺族代表は36人だった。

 原爆投下時刻の午前8時15分には、遺族代表とこども代表が「平和の鐘」を突き、全員で黙とうをささげた。小学6年の2人が「平和への誓い」に立ち、「被爆者の魂の叫びを受け止め、次の世代や世界中の人たちに伝え続けたい」とヒロシマの継承を決意した。 この一年に死亡が確認された広島の被爆者5068人の名前を記した原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められ、117冊、計31万9186人になった。

平和宣言骨子

 ■世界では自国第一主義が台頭し、国家間の排他的、対立的な動きが緊張関係を高め、核兵器廃絶への動きも停滞している。私たちの先輩が決して戦争を起こさない理想の世界を目指し、国際的な協調体制の構築を誓ったことを思い出し、理想の世界を目指す必要があるのではないか

 ■平和で持続可能な世界を実現するためには、私たち一人一人が立場や主張の違いを互いに乗り越え、理想を目指し共に努力するという「寛容」の心を持たなければならない。未来を担う若い人たちが、被爆者や平和な世界を目指す人たちの声や努力を自らのものとして前進することが重要

 ■世界中の政治指導者には、核不拡散条約第6条に定められている核軍縮の誠実交渉義務を果たすとともに、核兵器のない世界への一里塚となる核兵器禁止条約の発効を求める市民社会の思いに応えてほしい

 ■日本政府には、核兵器禁止条約への署名・批准を求める被爆者の思いをしっかりと受け止め、核兵器のない世界の実現にさらに一歩踏み込んでリーダーシップを発揮してほしい

(2019年8月7日朝刊掲載)

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