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湯崎英彦広島県知事あいさつ全文 ヒロシマ8・6

 原爆犠牲者の御霊(みたま)に,広島県民を代表して,謹んで哀悼の誠(まこと)を捧げますとともに,今なお,後遺症で苦しんでおられる被爆者や,ご遺族の方々に,心からお見舞い申し上げます。

 74年前,この地は原爆によりあらゆるものも人も破壊され尽くしました。

 しかし,絶望的な廃墟の中,広島市民は直後から立ち上がりました。水道や電車をすぐに復旧し,焼け残りでバラックを建てて街の再建を始めたのです。市民の懸命の努力と内外の支援により,街は不死鳥のごとく甦ります。今,繁栄する広島には,国内外の多くのお客様で賑い,街の姿は,紛争後の廃墟から立ち上がろうとしている国々から訪れる若者に,復興への希望を与えています。

 しかしながら,私たちは,このような復興の光の陰にあるものを見失わないようにしなければなりません。緑豊かなこの平和公園の下に,あるいはその川の中に,一瞬にして焼き尽くされた多くの無辜の人々の骨が,無念の魂が埋まっています。かろうじて生き残っても,父母兄弟を奪われた孤児となり,あるいは街の再生のため家を追われ,傷に塩を塗るような差別にあい,放射線被ばくによる病気を抱え今なおその影におびえる,原爆のためにせずともよかった,筆舌に尽くし難い苦難を抱えてきた人が数多くいらっしゃいます。被爆者にとって,74年経とうとも,原爆による被害は過去のものではないのです。

 そのように思いを巡らせるとき,とても単純な疑問が心に浮かびます。

 なぜ,74年経っても癒えることのない傷を残す核兵器を特別に保有し,かつ事あらば使用するぞと他(た)を脅(おど)すことが許される国があるのか。

 それは,広島と長崎で起きた,赤子も女性も若者も,区別なくすべて命を奪うような惨劇を繰り返しても良い,ということですが,それは本当に許されることなのでしょうか。

 核兵器の取扱いを巡る間違いは現実として数多くあり,保有自体危険だというのが,米国国防長官経験者の証言です。近年では核システムへのサイバー攻撃も脅威です。持ったもの勝ち,というのであれば,持ちたい人を押しとどめるのは難しいのではないでしょうか。

 明らかな危険を目の前にして,「これが国際社会の現実だ」というのは,「現実」という言葉の持つ賢そうな響きに隠れ,実のところは「現実逃避」しているだけなのではないでしょうか。

 核兵器不使用を絶対的に保障保証するのは,廃絶以外にありません。しかし変化を生むにはエネルギーが必要です。ましてや,大国による核兵器保有の現実を変えるため,具体的に責任ある行動を起こすことは,大いなる勇気が必要です。

 唯一,戦争被爆の惨劇をくぐり抜けた我々日本人にこそ,そのエネルギーと勇気があると信じています。それは無念にも犠牲になった人々に対する責任でもあります。核兵器を廃絶し,将来世代の誰もが幸せで心豊かに暮らせるよう,我々責任ある現世代が行動していこうではありませんか。広島県としても,被爆75年に向けて,具体的行動を進めたいと思います。

 結びに,今なお苦しみが続き,高齢化も進む国内外の被爆者への援護が更に充実するよう全力を尽くすことを改めてここに誓い,平和へのメッセージといたします。

令和元年8月6日
広島県知事 湯崎 英彦

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