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世界へ。ヒロシマの思い 法王の「平和アピール」共有 高校放送部の5人が朗読

11月訪問「新たな一歩に」

 「戦争は人間のしわざです。戦争は人間の生命の破壊です。戦争は死です」―。広島市中区幟町の世界平和記念聖堂であったミサで、ノートルダム清心高(西区)放送部の5人が、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が1981年に広島から発信した「平和アピール」を朗読した。被爆者を含む信者たち約300人が重みをかみしめ、11月の現法王フランシスコの被爆地からのメッセージに期待を寄せた。(石井雄一)

 ヨハネ・パウロ2世の平和アピールの発表から38年。「この間の平和への歩みを振り返り、法王とともに平和を紡ぐ新たな一歩にしよう」と、ミサを主催するカトリック広島司教区(中区)が同高に朗読を依頼した。

 引き受けた5人は信者たちに向かい、はきはきと重みのある声を響かせ、15分ほどのアピールを手分けして読み上げた。同高2年の市頭依真(いちがしら・えま)さん(17)は「当時の法王の平和を求める強い気持ちは今にも通じる」と話した。

 聖堂でじっと聞き入る信者の中にいた東区の山口裕子さん(86)はあの日、比治山高等女学校(現比治山女子中・高、南区)で被爆した。両親や姉たち一家5人を亡くし、中区堀川町の自宅も失った。「戦争は、本当に人間を破壊する。身も心も。たとえ生き残ったとしても」。ミサの後、朗読した5人に語り掛けた。

 戦後しばらく、当時の記憶を胸に押しとどめていた山口さん。「語ることで追体験になり、本当につらかったから」と顧みる。そんな自分を奮い立たせてくれたのが、38年前の平和アピールだった。過去を振り返ることは、将来に対する責任を担うこと―。「私に向けられた言葉だと思った」という。

 現法王は2013年の就任後、繰り返し核廃絶を訴え、17年にはローマ法王庁(バチカン)として、核兵器禁止条約を批准している。「それだけ強い思いを持って被爆地を訪問される。そこで紡がれる言葉を、私たちはきちんと受け止めないといけない」と山口さん。若者たちの心に響き、停滞する核軍縮を前へ進める、力強いアピールを待ち望む。

(2019年8月7日朝刊掲載)

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