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原爆文学研究会と「原発問題」 震災後、広がる視座 福島で来月初の例会

 大学の研究者や作家らが原爆や核をめぐる表現を検証してきた「原爆文学研究会」(世話人代表・長野秀樹長崎純心大教授)。広島、長崎の被爆体験を出発点とする活動を続ける中、東日本大震災が起きた。被災地の今を知るため、4月27日に福島市で初の例会を開く。原発問題と向き合う姿勢をあらためて確認する。(渡辺敬子)

 研究会は2001年、地元作家を掘り起こしてきた九州大大学院教授の故花田俊典さんの呼び掛けで始まった。発足の辞には模索すべき課題として「記憶の風化」や「核兵器削減・廃絶」を掲げた。現在、西日本を中心に約60人が参加。福岡や長崎、広島で年3回の例会を開いている。

 対象は文学にとどまらない。漫画や映画、絵画、同人誌も扱う。被爆者の大田洋子や原民喜、山田かん、被爆体験を手記にするよう促した山代巴、日記を基にした小説「黒い雨」の井伏鱒二、「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」の漫画家こうの史代など、横断的に取り上げてきた。

 会員による評論やエッセー、書評を機関誌「原爆文学研究」として発行。昨年12月に11号を重ねている。

 震災前の視点には、軍事利用された原爆と、「平和利用」の原発を隔てる垣根が会の中にもあった。事務局を務める福岡大人文学部の中野和典講師は「一部の若手を除けば、原発の問題を会として共有できていなかった反省がある」と話す。

 震災後も当初は、原爆と原発を並べ論じることに慎重な意見もあったという。しかし、例会での発表を基に編集する機関誌には、井上光晴「西海原子力発電所」に関する批評、1980年代に雑誌「宝島」で展開された反原発のメッセージをめぐる考察など、新たな課題に取り組む論考が増えていった。

 議論を重ねる中で、福島での例会開催へつながった。「震災後、研究の対象は一段階広がった」と中野さん。研究会発足の辞にも、新たな言葉を添える方針だ。

 放射能汚染と向き合う福島の今を知るため、福島大を例会の会場にした。当日は、同大の沢正宏名誉教授が、1975年に福島第2原発設置に反対する住民が起こした裁判の資料集を震災後に編集した経緯や事故後の現状について話す。

 原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)の岡村幸宣学芸員は「『非核芸術』の系譜―広島から福島まで」として報告。長崎が舞台の鹿島田真希の小説「六〇〇〇度の愛」も取り上げる。28日には、沿岸部の浜通り地方を訪ねる。

(2013年3月30日朝刊掲載)

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