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社説・コラム

天風録 『長崎の十字架』

 由緒ある十字架が海の向こうで見つかった。長崎原爆で倒壊した旧浦上天主堂。進駐米兵が譲り受け、持ち帰っていたという。そんなニュースがオハイオ州にあるウィルミントン大の平和資料センターから届いた▲金の縁取りと花の紋章が少し傷ついているのは被爆の証しなのだろうか。センターの設立者は他でもない、被爆者支援や平和運動に情熱を注いだ故バーバラ・レイノルズさん。広島ゆかりの彼女が結んだ縁と言えそう▲あの日から74年、十字架は古里に戻ってきた。運んできたセンターの所長は大量殺戮(さつりく)兵器の使用中止を呼び掛けた。被爆地に寄り添う米国人の存在は心強い。ただ、そんな人ばかりではないらしい▲米の人気テレビドラマで「ナガサキ」という単語が「破壊する」意味で使われていた。悪役のせりふだから制作者は原爆を肯定しているのではないとの見方もある。しかし被爆者の苦しみを考えるとあまりに不謹慎だ▲核兵器は要らないと声を上げましょう―。長崎市長はきのう平和宣言で、当事者として行動するよう市民に呼び掛けた。「私もまた被爆者です」。バーバラさんの口癖を思い出す。一人一人ができることを改めて心に刻まねば。

(2019年8月10日朝刊掲載)

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