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社説・コラム

社説 露の原子力ミサイル事故 軍拡再燃は許されない

 核超大国が角突き合わせていた冷戦時代に逆戻りするつもりなのだろうか。国際社会を崖っぷちに陥れてしまう軍拡競争を再燃させてはいけない。

 ロシア北部の海軍実験場で先週、爆発事故が起きた。原子力を推進力とする新型ミサイルの実験が失敗し、エンジンが爆発したようだ。実験に関与したロシア国営原子力企業の専門家によると、「小型原子炉開発」に関連した事故で、同社傘下の核・実験物理学研究センターの専門家5人が死亡した。

 事故直後、周辺地域の放射線量が自然放射線量の16倍まで上昇した。住民や環境への放射能汚染が懸念される。近くの海域では1カ月間、船舶の航行が禁止されたという。ロシア政府はまず汚染の拡大防止策を急ぐべきではないか。

 情報公開が不十分なことも問題だ。特に放射能汚染は健康や命に関わる。事故後、健康被害を防ごうとヨウ素入り薬品を求める住民が薬局などに殺到したという。不安解消のためにも徹底した情報公開が求められる。

 米国の分析では、事故を起こしたのは原子力を動力源とし、「ほぼ無限」の長距離飛行が可能という巡航ミサイル「ブレベスニク」という。米国のミサイル防衛(MD)網を突破するため、ロシアが開発中だった。

 ただロシアの軍事産業筋は、事故はブレベスニクとは関係なく、新たな技術を開発中に起きたとしている。米国内にも、音速を大きく超えるマッハ5~10で飛ぶ極超音速巡航ミサイルの開発中だったとの見方がある。いずれにせよロシアは軍備拡張に突き進んでいると言えよう。国際社会として看過できない。

 背景には、MD網に対するロシアの強い対抗心がある。自分たちの核戦力が無力化されかねないと考えているようだ。そのためMD網を突破できる新型核兵器の開発に力を入れてきた。

 プーチン政権の挑発的な動きが近年目立つ。2014年には、ウクライナ南部のクリミア半島を強制編入した。国際社会の反発を無視して、戦後の国際秩序を破壊する行動に踏み出した。

 それに先立ち、ウクライナの親ロシア政権が崩壊した際、核兵器を使う「準備ができていた」と後にプーチン大統領が明らかにした。言語道断である。

 一方の米国にも責任はある。ロシアが強く反対していたMD網の整備を進めてきた。今年は中距離核戦力(INF)廃棄条約を失効させるなど、核軍縮合意を次々に壊してきた。

 「使える核」として局地攻撃に使う小型核の開発を検討する核戦略の新たな指針「核体制の見直し」(NPR)を昨年公表した。今回のミサイル事故でもトランプ大統領はツイッターで、爆発はブレベスニクの失敗だと指摘し、米国は「より先進的」な同様のミサイル技術を持っていると誇示した。

 軍拡の動きに油を注ぎかねない。指導者としての資質が疑われよう。

 このまま両国が張り合えば、軍備増強を続ける世界2位の経済大国の中国も絡み、軍拡競争が繰り返される。国際社会は、核保有国の横暴や「使える核」といった寝言を許してはいけない。人類の未来が無責任な指導者たちによって押しつぶされないよう、連携して核軍拡に歯止めをかけねばなるまい。

(2019年8月15日朝刊掲載)

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